「酒造りの神様」の異名をもつ農口尚彦杜氏の匠の技術・精神・生き様を次世代に継承することを目的に、厳選した若手蔵人を集めて2017年に石川県小松市に新設された酒蔵、「農口尚彦研究所」。こちらで地元の食産物を用い、国内外の著名シェフによる「Sake」と「Gastronomy」の融合をコンセプトとしたペアリングイベント「小松Saketronomy」が研究所内にある「杜庵」で開催された。2019年から始まった当イベントは、今回が五回目となり、11月12日、13日に開催された。
88歳、農口杜氏「生涯最高の日本酒を作りたい」
10月中旬、山﨑志朗は石川県に入った。昨年の第四回に引き続き、農口尚彦研究所から招聘された山﨑シェフは、漁港や農園などを事前に視察を重ね、生産者などと交流を深めていった。
「山﨑」はオープンして三ヶ月という驚異的なスピードでミシュランの星を獲得した日本料理の人気店だ。ゲーテのレストラン特集でも「和食も若い料理人が増えているなかで、センスが卓越している」(秋元康氏)、「料理に確固たる芯を感じさせる」(中田英寿氏)と、感想を寄せてくれていた。
ソムリエの資格を有する山﨑シェフは、事前に酒蔵の全商品を入念に分析し、ペアリングコースを作り上げていった。石川県の冬の味覚「加能蟹」や「香箱蟹」を贅沢に組み込み、10品の料理と農口尚彦研究所のペアリングが完成したのであった。
会の途中には、農口尚彦氏も顔を出してくれた。事前にスタッフの方からは「杜氏はみなさんに感想を必ず聞いてきます。それを酒造りに反映すべく、細かくノートを取りますので、皆様よろしくお願いいたします」という説明もあるほど、様々な人の意見を集め、酒造りに反映させていくのだ。
「もうすぐ89歳になりますが、今冬も生涯最高の日本酒を造ろうと一生懸命、酒造りに取り組んでいます。山﨑シェフのお料理とペアリング体験が、これからの酒造りに良い刺激になりました」と話す。また、今後の事業について尋ねると、「やはり、もっと日本酒を世界中で飲んでもらいたいと思っているので、どんな日本酒が世界の人々の好みに合っているのか、日々研究を続けているところです」。
「小松Saketronomy」は、農口尚彦研究所が中心となり、有機米生産者「護国寺農場」と有機野菜生産者「西田農園」が参加して発足された「小松市美食バレー実行委員会」が開催している。
2022年7月には研究所に隣接する小学校をリノベーションし、ホテル、レストランを併設する体験施設が開業予定だという。「美食のまち」として、様々な試みを提供することによって、地元の士気や技術は底上げされていくことになる。2024年には北陸新幹線が小松駅で開業される小松市、今後の振興も注視したい。
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