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2024.09.05
女性は「論理的思考」が不得意は本当? 平等意識が高い人にも根深く残るジェンダーバイアス
OECD(経済協力開発機構)諸国で、日本は最も理系女性が少ない国。女性学生の理科・数学の成績は世界でもトップクラスなのに、なぜ理系を選択しないか? 緻密なデータ分析から、その背景にある日本の男女格差の一側面を浮彫りにする。『なぜ理系に女性が少ないのか』より、一部を抜粋してお届けします。
「論理的思考力」と「計算能力」は男性的?
「天賦の才能(Brilliance)」という言葉は、世界中で使われています。最近では「ギフテッド」という言葉で、小さな子どもたちの驚異的な能力が注目されることも多くなりました。
昔から数学・物理学では、特にこの「天賦の才能」が求められる、と思われています(Leslie et al., 2015 ※1)。アメリカの一般市民の調査ではこのイメージは大学進学者に多く(Meyer et al., 2015 ※2)、スイスでも工学や情報科学と比較して、数学や物理学に対して天賦の才能のイメージが強いのです(Deiglmayr et al., 2019 ※3)。
それでは社会は、こうした能力に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか。「天賦の才能」のイメージが強いと思われる分野であればあるほど、博士号を持つ女性の割合が低くなるという事実は、何を意味するのでしょうか。
このことを考えるために、私たちは先に挙げた7つの能力について、どれが男性イメージが強いか、女性イメージが強いかを尋ねる調査を行いました。
比較・分析は、日本とイギリスを対象地域として行いました。イギリスは、地域ごとに教育システムが異なるために、北アイルランド・スコットランド・ウェールズは調査から除外して、イングランドのみにしました。
余談ですが、こうした決定ができるのは、私たちのチームにイギリス人の共同研究者、マッカイ先生がいるからです。教育システムは各国とも複雑で、共同研究者に事情がよく分かる人がいないとなかなか理解が難しいのです。調査したのはイングランドですが、以下ではイギリスと表記します。
調査対象者は、大卒以上の20歳から69歳までの男女で、日本は1177名(男性594名、女性583名)、イギリスは1082名(男性553名、女性529名)に、オンラインで調査しました。7つの能力に対して、男性イメージ・女性イメージを聞くと同時に、回答する各個人が、どの程度にジェンダー平等度を持つかを測定しました。
このジェンダー平等度は、心理学分野で開発された〈SESRA-S(セスラ-エス)〉と呼ばれる、「平等主義的性役割態度スケール短縮版」を用いて測定しました。
〈セスラ-エス〉とは、「女性が社会的地位や賃金の高い職業をもつと結婚するのがむずかしくなるから、そういう職業をもたないほうがよい」といった質問に対して、「まったくそのとおりだと思う」から「ぜんぜんそう思わない」まで5段階でどう答えるかを、15個の質問から数値化するスコアです。これによって、回答をする個人の、平等意識を比較することができます。
90年代に開発されたもので、少し古くなっているという点はありますが、私たちのように分野外の研究者も使いやすく、この研究プロジェクトで、なくてはならない指標でした。このスコアを使うことによって、ジェンダー平等をめぐる社会風土を数値化することができたのです。
「男性的」から「女性的」までを5段階に分けたうえで点数をつけてもらい、計算結果を出しました。図表2-1(※4)はその結果です。
日本では、「論理的思考力」と「計算能力」は男性的だと思う人たちが特に多い、ということが一見して分かります。イギリスでもやはり両方の能力が男性的だと思う人は多いですが、「計算能力」が男性的だと思う人が、「論理的思考力」が男性的だと思う人よりも多いという結果となりました。
重要な点は、イギリスと比較して日本のほうが、全体的にすべての能力に対して男性イメージが強いことです。
また、日本もイギリスも、「社会のニーズをとらえる能力」は女性的だと思う人が多いですが、この度合いはイギリスのほうがずっと大きくなっています。興味深い点です。
能力に対するジェンダーイメージは、平等意識が高い人にも強固に定着している
〈セスラ-エス〉のスコアを見ると、ジェンダー平等度は全体的にイギリスのほうがずっと高いという結果が出ました。
イギリスでは特に女性で平等意識が高くなっています。イギリスの男性の平等度は2つのピークに分かれており、高い方はイギリスの女性と同じ程度です。
日本は男性だけでなく女性も平等度が低く、イギリス男性の平等度の低いほうのピークと同程度だったことには、ショックを受けました。
これはつまり、日本では、女性か男性かにかかわらず平等意識が低い人が多いことを示し、向上のための教育が必要であると考えられます。
さて、能力によってジェンダーイメージに違いがあることは想像通りでしたし、その傾向は、日本とイギリスでは似ていました。しかし、その度合いは日本が圧倒的に強いことを、想像をしていたとはいえ、数値化することではっきりと認識することができました。
一方で、能力に対するジェンダーイメージと、〈セスラ-エス〉で測定したジェンダー平等度とのあいだには、ほとんど相関関係がありませんでした。つまり、能力に対して抱く「男性向き」「女性向き」といったイメージは、個々人の平等度とは関係しない、定着している強固なイメージだということです。
これは平等度の低い人に限らず高い人でも、能力に対してのイメージが固定していることを意味します。
※1 Leslie, S. J., Cimpian, A., Meyer, M. and Freeland, E. (2015).‘Expectations of brilliance underlie gender distributions across academic disciplines’. Science, 347(6219), 262-265.
※2 Meyer, M., Cimpian, A. and Leslie, S. J. (2015). ‘Women are underrepresented in fields where success is believed to require brilliance’. Frontiers in psychology, 6, 235.
※3 Deiglmayr, A., Stern, E. and Schubert, R. (2019). ‘Beliefs in “Brilliance” and belonging uncertainty in male and female STEM students’. Frontiers in psychology, 10, 1114.
※4 一方井祐子、井上敦、南崎梓、加納圭、マッカイユアン、横山広美(2021)「STEM分野に必要とされる能力のジェンダーイメージ:日本とイギリスの比較研究」『科学技術社会論研究』19、79-95
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