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2024.06.13
須藤元気が「元格闘家」のイメージを逆手に、海外で成功できた理由
作家、俳優、ミュージシャン、世界学生レスリング日本代表監督……格闘家を引退後もマルチに活躍し、先日の衆議院補欠選挙への出馬も話題となった須藤元気さん。著書『やりたい事をすべてやる方法』(2015年12月刊行)より、そんな彼の「軽やかに転身し続けられる秘密」を公開する。
「元格闘家」というパブリックイメージ
WORLD ORDERを起ち上げようと思い、周りの人たちに「ロボットダンスで」「ダンスミュージックで」と一生懸命に説明をしたが、誰も相手にはしてくれなかった。
相手にされなかった最大の理由は、僕に対して「元格闘家」というイメージが強くあったからである。それは自分でも分かっていたことではあったが、まだ引退して間もないということもあってなのか、ほとんどの人に色眼鏡で見られていた。
もし仮に、元サッカー選手の中田英寿氏が音楽をやりたいと言えば、僕も同じような目で見てしまうだろう。それほどパブリックイメージというのは、芸能や政治だけでなくスポーツ選手に対しても根強いものだと身をもって知ることができた。
一度イメージがつくと、何かそれまでとは違う新しいことをするときに、人はなかなか好意的に見てはくれないのだ。
WORLD ORDERをやりたいと言っても、国内で相手にされない。だが、「ピンチはチャンス」の格言通り、「これこそチャンスだ」と思った。国内で無理なら世界を相手にしてみようと思い立ったのである。
海外でなら、僕が格闘技をやっていたことを知る人も少ないし、色眼鏡で見られることもないはずだと。
では、海外で勝負するにはどうすればいいのか。
まずは海外から見た日本人のパブリックイメージ、「This is Japan」と思わせるものは一体なんなのかということを考え続けた。何故なら、海外の人にも分かるように日本人のカルチャーを前面に出した方がいいという結論に至ったからだ。
ハリウッド映画なんかを観ていると、「そんな日本人いないでしょー」と思うような描かれ方をされていることがある。映画「ラストサムライ」のように、横浜の海から巨大な富士山が見えるのはまだいいが、ひどいのになると、言葉までカタコトだったりする。西洋からは、「日本人」というのは「アジア人」という一つの大きなくくりで見られているんだなと感じることが多い。
しかし一方で、日本というのは良質な電化製品と車の国だ、というパブリックイメージは間違いなくある。
足りないところがあったら、それを逆手に取って考える
そのイメージを支えているのは日本のサラリーマンたち。滅私奉公という言葉があるように会社奉公的に働くサラリーマン。
子供のころから文句も言わず塾通いをして従順に育ち、封建時代の下級武士のようなメンタリティを持ちながら、しかし心の底から会社に忠誠を誓っているわけでもない。家のローンのために、便宜的に上司の顔色をうかがいながら一生懸命頑張っている姿がどこか物悲しいというイメージ。生真面目で几帳面で画一的でどこか人が好く、滑稽でもある。
海外の人たちが見るそんな「日本のサラリーマン像」こそ、「This is Japan」なイメージではないかと思った。
サラリーマンの涙ぐましい努力にスポットライトを当てて魂の叫びを代弁する。それがまさに、そのままWORLD ORDERのビジュアルコンセプトになった。
そうして、国内に向けたものではなく、最初から海外に向けたことにより、海外から評価をされ、格闘技のときと同じように逆輸入という形で日本でも活動できるようになったのである。
僕が、実はジョン・レノンの隠し子で三歳からギターを習い、一流ミュージシャンに囲まれて育ち、すんなりとデビューが決まっていたら、いまの形のWORLD ORDERは誕生しなかっただろう。
音楽を始めようと思ったときに立ちはだかった「元格闘家」という不利なイメージを逆手に取ったわけである。
僕は格闘家のころ、入場パフォーマンスをしたりトリッキーな戦い方をしたりしてきた。
その理由というのも、昔はヘビー級しかなかったような格闘界のなかで、それほど大きくないこの体型でどうやって戦おうか考えてきた結果である。もし僕がヘビー級の体格で身体も強くてイケメンだったら余計なことは考えていなかったと思う。
しかし、だからといって、その場合にいまの自分より満足できる生き方ができたかというと、それは別問題なのだ。
自分が不利な場合、「足りないところがあったら、それを逆手に取って考える」という発想でやるとうまくいく。
足りないからこそ考えて、そこから新しいモノができる。もともといろいろ備わっている人というのは少ないはずだ。世のなかの大半の人は何かしら足りない部分があるのだと思う。
その欠落している部分こそが、人間の美しさなのだ。この世に完璧なものなどないのだから。
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