その国を象徴する存在である国王。常に人前に立ち国民を導くトップリーダーにとって、価値や装飾だけではない腕時計の“美しさ”とは――。【特集 美しい時計】
新国王チャールズ3世の先見性と審美眼
ときに持ち主のパーソナリティを映しだすアイテムとして例えられる腕時計。それゆえ各界を代表するカリスマたちの腕元は、世界のメディアに取り上げられることが多い。
例えば2022年大きな話題となったのが、イギリスの王位継承評議会が国王即位を布告した際、チャールズ3世が着用していた、パルミジャーニ・フルリエの「トリック クロノグラフ」だ。
ブランドの立ち上げと同時に発表された記念すべき初のコレクション「トリック」は、パルミジャーニ・フルリエのシグネチャー的な存在。ゴドロンとモルタージュ装飾を交互に施したケースのデザインが最大の特徴だ。時計師であり修復師でもあった創業者のミシェル・パルミジャーニ氏が、パテック フィリップのミュージアムピースを修復するなかで身につけた、高度な装飾技術が活かされている。
チャールズ3世が愛用する18Kイエローゴールド製のクロノグラフは、現在は廃盤になっている貴重な1本。パルミジャーニ・フルリエが得意とするギョーシェ装飾やブルースチール製の針など、昔ながらの時計製造の技術が随所に見うけられる。
チャールズ3世がこの時計を購入したのは、今から20年ほど前の2000年代初頭頃だという。パルミジャーニ・フルリエが、1996年に創業されたことを鑑みると、その先見性や審美眼には大いに驚かされる。
イギリスは立憲君主制の国であり、君主が果たすべき重要な役割のひとつに、国民の代表としての責務がある。いうなれば、イギリス国王であるチャールズ3世の姿や立ち居振る舞いは、国民のアイデンティティと深く結びついているのだ。
この点からも時計製造の伝統が息づく「トリック クロノグラフ」は、チャールズ3世の腕元を飾るにふさわしい腕時計といえるだろう。華美な装飾に頼らない品格のある佇まいは、シンプルなデザインのなかに職人の技巧が込められており、その気品溢れる造形は、まるでドレスウォッチさながらの美しさを醸しだしている。
人々を導くリーダーにとって時計の“美しさ”とは、その価値や豪華な装飾だけではない。時計が持つ意味合いや人に与える印象も重要だ。時計は第一印象につながるもの、だからこそ意義のある1本を選びたい。
Charles Ⅲ
1948年ロンドン生まれ。エディンバラ公フィリップとエリザベス王女の長男として、バッキンガム宮殿で誕生。長らく皇太子とイギリス陸海空軍元帥を務め、2022年9月にイギリス国王に即位した。