仕事で成功を収める経営者の多くが腕時計に情熱を注ぐのはなぜなのか? 時計がビジネスマインドにもたらす価値を探る。【特集 高級腕時計のシゲキ】

今もっとも刺激を受けている腕時計が、IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」。大型& シンプルでいてエレガントなデザインや、着用した時に感じる確かな重量感に惚れたという。
ステランティスの日本法人トップ、ポンタス・ヘグストロム氏の時計哲学
フィアットやアルファ ロメオ、ジープ、プジョーなど8つの名門ブランドを擁する世界4位の自動車メーカーグループ、ステランティス。その日本法人トップとして辣腕(らつわん)を振るうのが、ポンタス・ヘグストロム氏だ。人生の大半を自動車産業の発展に捧げてきた背景には父親が自動車会社の幹部であったことも大きかったといい、帰郷しては自動車とともに腕時計談義にも花を咲かせるという。
「シンガポールに赴任した時など、私が新しいステージに立つたびに父は腕時計を贈ってくれました。立場のある人間になったのだからこれくらいの腕時計をつけなさい、との想いが込められていたのだと思います」

カルティエ「タンク ディヴァン」(右)は、40歳になった時に父からプレゼントされた18Kゴールドモデル。パネライ「ラジオミール」(左)はマイクロローター搭載自動巻きムーブメントにより薄型化を実現したモデルで、自分へのご褒美として5年ほど前に購入したもの。
そうした体験から、ビジネスにおけるマイルストーンに関連づけて腕時計を購入することが習慣となった。所有する腕時計を見るたびに、困難を乗り越えた達成感や喜びなど、当時の感情が蘇ってくると話す。ヘグストロム氏にとって、腕時計コレクションそのものがビジネスマインドを刺激する装置であるとともに、これまでのビジネスの軌跡を表すシンボルとなっているのだ。
「もちろん、腕時計そのものからも大きなインスピレーションを受けています。微細なパーツが高精度に組み合わさり、すべてが完璧に作用しなければならないというのは自動車も同じ。毎年のように革新的な技術が生まれることや、製造して数十年が経っても一定の価値を失わないこと、そして所有者にエモーショナルな体験をもたらすことも共通していると思いますし、時計職人たちのクラフトマンシップをとても尊敬しています」

往年のライダータブも印象的なブライトリング「クロノマット」(右)。スウォッチ「システム51 ホディンキー ヴィンテージ 84」(左)。ムーブメントのパーツがわずか51個のみで、機械式にもかかわらず完全オートメーション製造という革新性に惚れこんだ。
ヘグストロム氏が所有するコレクションは、高級時計からカジュアル時計まで実に幅広い。それは、車種によって異なる経験をもたらしてくれる自動車と同じように、腕時計の奥深い魅力をより深く味わいたいからだという。
「今、一番気に入っている腕時計のひとつが、IWCの『ビッグ・パイロット・ウォッチ』。本当に大変だった経営統合をやっとの想いで達成した時に購入しました。シンプルで美しく、ほどよいボリューム感があり、眺めるたびに嬉しい気持ちにさせてくれます」
次はより小径の『ビッグ・パイロット・ウォッチ』を狙っていると笑みをこぼす。そうした想いがヘグストロム氏のモチベーションを刺激し、ビジネスへの情熱を加速させている。

Stellantisジャパン 代表取締役社長 兼 CEO
ポンタス・ヘグストロム
1965年スウェーデン生まれ。サーブ・オートモービルやゼネラルモーターズなど、約40年にわたり自動車産業に関わる。ステランティスジャパンは、グループPSAジャパンとFCAジャパンが合併した新会社の日本法人。