1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた仕事人たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「人生を彩る眼鏡」の第12回は歌舞伎役者・尾上右近。「人生を彩る眼鏡#12」
PERSON 62
歌舞伎役者/尾上右近
自分らしさはすべて眼鏡に現れる
視力はよく、歌舞伎座の一番奥の席のお客さんの顔までよく見えるという尾上右近さんは、眼鏡やサングラスをファッションとして楽しんでいる。
「眼鏡をかけ始めたきっかけは、歌舞伎の舞台です。舞台メイクのために10代後半ぐらいから20代半ばぐらいまでずっと眉毛を剃っていました。周りの人たちは舞台が終わると眉毛を描いていましたが、僕は面倒だったので、それをごまかすために眼鏡をかけ始めたのが最初です。
そのうちに眼鏡ありきのファッションが好きになってきて、むしろ眼鏡をかけないことが、自分にとって居心地が悪くなってきて。今は眉毛を剃っていませんが、外出する時は眼鏡をかけるのが習慣になっています」
眉なしの顔を隠すために始まった眼鏡生活なので、室内でも外さないことが基本。そのためサングラスの場合も、レンズの色は薄い色を選ぶことがほとんどだ。
「黒系のファッションが好きなので、最近選ぶ眼鏡は黒縁ばかり。でも昔はまったく逆でした。歌舞伎や役者という仕事は好きですが、だからといって人前に立つことが得意なわけじゃない。だから自分がどう見られているかを気にしたうえで、でも気にしてないように装っていた。
ファッションも眼鏡も、ちょっと奇抜なものを選んでいた時期もありました。自分のなかに小さな勇気を持ち歩く感覚です。でも最近は気負わずに自然体でいられるようになって、自然と選ぶ眼鏡もシンプルなものに変わっていきましたね。
眼鏡は人に与える印象を大きく左右しますが、“チャラチャラしてそうで実は真面目に歌舞伎をやっている”というのが僕の中の理想の尾上右近像。そう見せるための小道具として眼鏡をかけたい」
そう語る右近さんが今回選んだのは、EYEVAN 7285「192」。1950年代のヴィンテージからサンプリングした八角形(オクタゴン)のメタルフレームをもち、リムやブリッジの形状はアンティークの時計のケースから着想を得たポインテッドリムを採用。正統派クラシックでありつつモダンさも楽しめる。
「こういう機会だからこそ、自分では選ばないタイプに挑戦してみました。基本、すべてを自分でコントロールしたいタイプですが、最近はイレギュラーなことも受け入れて自分の糧にできるようになりたいと考えるように変わってきました。
普段選ばないタイプの眼鏡をかけるということも自分にとってはチャレンジですし、この眼鏡のクラシックとモダンが共存しているというところにも惹かれます。
僕は歌舞伎役者ですが、歌舞伎の伴奏音楽として用いられる三味線音楽、清元(きよもと)の唄方もやらせてもらっています。
ありがたいことにどちらもやること=中途半端とはみなされない時代になってきて。あとは自分がどちらも好きな状態で、挑戦し続けることだと思っています。新しいタイプの眼鏡を手に取ったこと自体が、そんな気持ちの表れかもしれませんね」
眼鏡は常に自分の身近な存在であった。だからかけたいと思う眼鏡の変化は、自分の変化ともつながっている。眼鏡は自分の気持ちを可視化するものでもあるのだ。
尾上右近/Ukon Onoe
1992年東京都生まれ。7歳で初舞台。12歳で二代目尾上右近を襲名。2018年に清元唄方の名跡七代目清元栄寿太夫を襲名。歌舞伎界の二刀流として活動を始める。映画『燃えよ剣』で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2024年8月31日、9月1日、9月4日、9月5日の日程で尾上右近自主公演第八回「研の會」を開催する。
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