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2024.05.23

「五輪に魔物なんていない」2大会連続の表彰台を狙う水泳・大橋悠依

パリ五輪の競泳日本代表で女子400メートル個人メドレーに出場する大橋悠依(28歳・イトマン東進)が2024年5月17日、欧州遠征に出発した。欧州グランプリ(GP)や高地合宿などを経て、帰国せずにパリ五輪を迎える。女子個人メドレー2冠を達成した2021年東京五輪後はモチベーション低下などに苦しんだが、自身2度目の大舞台を前に調子は上向いている。連載「アスリート・サバイブル」

「パリ五輪は水泳人生の集大成の舞台になる」

真夏の祭典に向け、大橋悠依が早くも欧州入りした。

パリ五輪まで続く3ヵ月近くに及ぶ長期遠征。東京五輪2冠の前回女王は、競泳日本代表チームが決意や目標を寄せ書きした日の丸に「覚悟」と記した。

「パリ五輪は集大成の舞台になる。五輪が終わるまで日本に帰って来ないので、3ヵ月はいい意味で覚悟を持って臨める。集中して、自分のやるべきことを全部こなして挑みたい」

今後はカネ(フランス)、バルセロナ(スペイン)、モナコで開催される欧州GPを転戦。6月上旬から標高2300mのスペイン・シエラネバダで高地合宿に入る。

2024年6月下旬にはローマ(イタリア)で開催されるセッテコリ国際に出場。再び高地合宿を張り、7月中旬に五輪直前合宿地のアミアン(フランス)に入る予定だ。

2017年世界選手権ブダペスト大会から何度も世界大会に出場してきた大橋にとっても、自身最長の海外遠征。体調を崩さずに、強度の高い練習を積めるかがカギを握る。

「体重が落ちないように、食事面を調整したい。"和"が好きなので、お餅やあんこのチューブ、羊羹(ようかん)などを持っていきます」

睡眠の質を上げるため、普段から使っている横向きで寝る用の枕を持ち込むなど、準備に余念はない。

スランプに陥った大橋を救った、後輩・今井月の言葉

2021年東京五輪で女子個人メドレー2冠を達成。2022年に、日本競泳女子で初めて肖像権を自主管理するプロスイマーに転向した。

社会進出を目指す女性のロールモデルを目指したが、徐々に五輪女王の肩書きが重荷になった。

東京五輪前は、2016年リオ五輪覇者で元同門の萩野公介が苦しむ姿を見て「楽しめばいいのに」と思っていたが、同じ立場となり「金メダリストにしか分からない気持ちがある」と痛感。モチベーションの低下に苦しみ、練習で追い込めず記録も低迷した。

苦悩から解放してくれたのは5歳下の後輩の言葉だった。東京五輪前まで一緒に練習した今井月(いまい るな/23歳・バローHD)から「もう獲るものを獲ったんだから好きにやればいいじゃないですか」と言われたという。

無邪気に真意を突かれ「確かに」と開き直れた。2023年秋以降は結果やタイムを追いすぎず、自身の強みである大きな泳ぎを追求。全盛期にはほど遠いが、一時のどん底を脱した。

迎えた2024年3月のパリ五輪代表選考会。最初の種目400m個人メドレーは代表権を逃した。

2大会連続の五輪出場へ後がなくなった200m個人メドレーは「この種目で五輪代表に入れなかったら、やめる」と進退を懸けてスタート台に立った。 

東京五輪後の自己最速タイムで優勝。パリ五輪代表の派遣標準記録も1秒53上回り、代表に滑りこんだ。

東京五輪以降、女子200m個人メドレーのレベルは格段に上がり、連覇の壁は高い。大橋の東京五輪の金メダルタイム2分8秒52は、2023年夏の世界選手権の優勝タイムより1秒35も遅い。

大橋は2017年に出した自己ベストの日本記録2分7秒91の更新を目標に設定。メダルは意識しすぎず、7年前の自分を超えることに集中する。

「世界は6秒台に突入して、7秒台の選手もたくさんいる。ディフェンディングチャンピオンと思わず、自分の一番いい泳ぎをしたい。よく“五輪には魔物がいる”と言うけど、多分いない。いると思うからいる。自分の泳ぎに集中したい」

パリ五輪開幕は2024年7月26日。挑戦者として最大限の準備を続けた先に、2大会連続の表彰台が待つ。

大橋悠依/Yui Ohasi
1995年10月18日滋賀県生まれ。草津東高から東洋大に進学。2017年世界選手権200m個人メドレーで銀メダル。2019年世界選手権は、400m個人メドレーで銅メダルを獲得した。2021年東京五輪で女子個人メドレー2冠。陸上の桐生祥秀とは同郷同い年で、中学時代から顔見知り。身長1m74cm。

■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=松尾/アフロスポーツ

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