1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウェアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた仕事人たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「人生を彩る眼鏡」の第7回はヴァイオリニスト・千住真理子。「人生を彩る眼鏡#7」。
PERSON 57
ヴァイオリニスト/千住真理子
決め手は表情に寄り添うデザイン
日本を代表するヴァイオリニスト、千住真理子さん。12歳でデビューし、キャリアを重ねた今も真摯に、そして精力的に音楽に向き合う姿が印象的だ。
「眼鏡は、楽譜を見るためになくてはならない存在です。練習の時は楽譜を見つめながら繰り返し演奏し、暗譜をしていきます。とくに私は、楽譜を頭で覚えるのではなく、視覚で記憶するタイプなんです。頭に浮かんだ映像のなかで、楽譜をめくるようなイメージですね。ですから、目はとても大切です」
ステージでは暗譜を基本としているが、譜面を置く室内楽では眼鏡をかけてステージに上がることも。そんなシーンも意識して選んだのは、EYEVANの「Tackett」だ。フロントにはソリッドなシート状のチタンを採用しながら、アイボリーのカラーリングが柔らかな雰囲気を演出。ブリッジやテンプルのゴールドが、目元にさりげない華やぎを添える。
「シャープな雰囲気が気に入りました。個性がありながら、肌の一部になってくれるようなカラーもいいですね。どんなドレスにもなじんでくれそうですし、顔の表情を作りすぎない形であるのも選んだ理由のひとつです。演奏をする時、お客様は奏者の顔も見ていますから、表情は音楽に少なからず影響をしてきます。ですから、演奏中のいろいろな表情に寄り添ってくれるデザインであることも、私にとっては重要なんです」
すべては、音楽のため。とくに、2002年に幻の名器・ストラスヴァリウスの「デュランティ」と運命的な出合いを果たして以来、このデュランティを弾きこなすためにと水泳やウォーキング、ストレッチなどで体力や筋力を高め、食事にも気を遣うように。そのストイックな向き合い方は、アスリートさながらだ。
「演奏する時は、手だけでなく筋肉や骨を使い身体全体を共鳴させていくので、この楽器に対応できる身体にしていかなくてはいけないんです。でも、私はまだまだデュランティを鳴らしきれていない。この楽器はもっといろいろな種類の音を出してくれるはずで、それを私が発見しなければいけないと思っているんです。これからは、この眼鏡も身体の一部となって、一緒に音を奏でていくことになりますね」
時には、朝起きてから夜寝るまで練習スタジオに籠り切りの日もあるのだという。
「でも、子どもがゲームに夢中になるのと一緒で、楽しいからやっているんです」と、まるで演奏する楽しさを知ったばかりの無垢な子どものように、キラキラと目を輝かせて話す。
「これまで自分が100%満足できた演奏があるかといえば、無いんですよね。“こう弾きたい”という理想は、蜃気楼のように遠ざかっていき、近づこうと思っても、また遠くにあって……。でも、だからこそ次も頑張ろうと思えるんです。楽器に導かれ、バイオリンという音楽の道を楽しく歩いている。これからもきっと、そういう感じですね」
千住真理子/Mariko Senju
1962年東京都生まれ。12歳でN響と共演しプロデビュー。1977年には日本音楽コンクールで最年少の15歳で優勝、レウカディア賞を受賞。1979年にパガニーニ国際コンクールに最年少で入賞した。1993年に文化庁「芸術作品賞」、1994年に村松賞、1995年モービル音楽賞奨励賞を受賞している。コンサート活動以外にも、講演会やラジオのパーソナリティを務めるなど、多岐にわたり活躍。著書に『聞いて、ヴァイオリンの詩』『ヴァイオリニストは音になる』など。
問い合わせ
EYEVAN Tokyo Gallery TEL:03-3409-1972