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2024.02.19

元鹿島・ハノイFC岩政監督「カウンターサッカーというベトナム文化を変える」

2024年1月にベトナムのハノイFCの監督に就任した岩政大樹。現役引退後は、解説者としても、サッカーの言語化力が評価された彼にとって、言葉は大きな武器である。しかし、日本語の通じない新天地で、どのように自身の強みを生かそうとしているのか。独占インタビュー2回目。【#1

写真=アフロ

使う言葉を限定することで、やるべきことを明確に伝える

――2024年アジアカップでのベトナムリーグ中断期での監督就任ですが、2月18日の再開まで1ヵ月ほどの準備期間でした。旧正月休暇もありましたが、たった2週間で大きな手応えを感じているように思います。

「鹿島アントラーズで1年半、監督をやらせてもらい、そこで見えたものがたくさんありました。当然反省も少なくありません。そういうなかで、次はこれをやりたいなと思えることも数多くあります。それを今、吸収したいという選手たちといっしょにやれている。これをやればこういう現象が起きるのかというのを確認しながら指導できています。抽象的ではありますが、1年前の自分とはだいぶ変われているなという感覚があります」

――岩政大樹という指導者にとって、言葉は大きな武器だと思うのですが、言語の壁をどう解決しようとしたのでしょうか?

「まず、大変だったのが、通訳探しでした。日本人指導者が活動している国、たとえばタイなどでは、サッカーの現場で仕事を経験した通訳も少なくありません。でもベトナムでは過去に日本人指導者としては、三浦俊也さん(2018年ホーチミン・シティFC)、霜田正浩さん(2021年サイゴンFC)のふたりだけ。

でも、みんなすでに仕事は決まっていたので、新しい人を探すしかなかったんです。オンラインで10人くらい面談して、話し方とフィーリングでお願いする人を決めました。ベトナム人です。当然、サッカー経験者でもないので、彼の教育も同時に行っています(笑)」

――言語化するうえで、ご自身のやり方、思考の変化はありますか?

「もちろん。ミーティングにおいて、僕がひとつの武器にしている言葉で選手に伝えて、修正点を改善していくという作業は、ハノイでは当然できません。練習中でも同じです。そうなると、何をどのように伝えるのかを考えなくちゃいけない。通訳を通してもうまく伝わらないことも想定しなくてはいけない。そこで、逆に使う言葉をできるだけ限定しようと考えました。

できるだけシンプルな言葉で説明し、トレーニングをやってもらっています。最初は日本語が理解できなくても、使う言葉が限定されれば、選手は理解できると思いました。僕のサッカーのカギとなるプレー、動きのパターンを最初に提示し、そこからその言葉を使っていけば、選手にも浸透していくだろうと」

――その言葉はいくつぐらいあるのですか?

「ノートに書き出したのは20~30くらいですかね。でも、まだ10個も使ってないです。一応、第一段階ではこの言葉を使おうとか、使う順番も考えています。ただ、ピッチに立ったら、どの言葉を使うかは、そのときの選手次第で変わるので。あまりリストを見ることはないです」

――1992年、初の外国人監督として、日本代表を率いたハンス・オフト監督は、「アイコンタクト」「トライアングル」などというフレーズを用いました。それによって、「サッカーはこんなに考えるスポーツなのか」と思うようになった選手は多かったと聞きます。

「それはわかりやすい例ですね。サッカーはどのようにも見られるものです。逆に言えば、なんらかのキーフレーズがないと、何も見えないというか、見える選手もいれば、見えない選手もいるわけです。でもポイントとなる言葉があれば、フォーカスする点、注視することが明確になり、いろんなものが見えてくる。見てほしいものに言葉をあてると、選手はそこを目的地として定めて、サッカーができるんです。

何も見えなかったところから、そこに光が当たって、プレーし始めます。それをどこに持ってくるかというのを、選手たちを見ながら、言葉として提示する作業を今、やっているわけです。日本人なら、言葉でこうだって説明できるけど、それができないが故に、どうすればいいのかを考えています」

――手始めに行ったことは?

「まずは、動きのパターンと揃えるべきポイントを作ろうと。それを提示していくことで、連動できなかったものが連動できるようになり、選手も楽にプレーができると感じているようです」

岩政大樹/Daiki  Iwamasa
1982年1月30日山口県生まれ。東京学芸大学(教育学部・数学専攻)卒業後、2004年鹿島アントラーズに加入。2007年からリーグ3連覇を達成。2010年ワールドカップ南アフリカ大会メンバーに。2014年タイ・プレミアリーグのBECテロ・サーサナFCに移籍。2018年秋、現役引退を発表。2022年シーズンより鹿島アントラーズのコーチに。同年8月には監督に昇格し、2023年シーズンまで指揮を執った。2024年1月11日ベトナム1部リーグハノイFCの監督に。

ダメだったら、腹をくくって帰国するしかない

――ハノイFCは今季のリーグ戦では現在中位ですが、ACLにも出場経験がある、ベトナムを代表するビッグクラブ。勝利が義務付けられているという意味では、鹿島アントラーズとも共通しますね。

「はい。それは当然理解しています。勝たなければいけない、というのは鹿島に似ているものがあります。結果を出さなければ、ここに居られなくなる。そういうプレッシャーが最初からあるクラブですね。選手のタレント的には、リーグのトップ3くらいの位置にあります。

そういうチームを自分のサッカーできちんと勝ちきらせることができるのかということは、僕にとってのチャレンジだと思っています。ダメだったら、ダメで自分も考えを改めるしかない。トップではなくても、トップクラスの選手がいるチームを優勝させられる力を指導者として持たないとダメだと思っています」

――鹿島ではそれができなかった。

「そうですね。全然やりきれなかった。日本はベトナムと違い、高いレベルで競い合うチームがたくさんあるので、1年半で優勝まで辿り着くのは難しかったですね。あの時の僕の力では。横浜F・マリノスのアンジェロス・ポステコグルー(現・英プレミアリーグ、トッテナム・ホットスパーFC監督)でも優勝するまでに2年がかかりましたし」

――ポステコグルー監督はハイプレス、ハイラインでボールを保持した攻撃力のあるモダンなスタイルが持ち味です。

「ヨーロッパではペップ(ジョゼップ・グアルディオラ/英プレミアリーグ、マンチェスターシティ監督)がそうであったように、日本でもポステコグルーが登場したことで、それを追随するクラブが出てきて、その国のサッカーが大きく変わりました。

ポゼッションの高いサッカーは理想だけれど、それでは勝てないという論調が日本にあった。ですが、それで勝ちきったのがポステコグルーです。彼が成し遂げたことで、今まであった向かい風が少なくなりました。それをベトナムでやりたいという想いがあります」

――指導者としての野望ですね。

「はい。僕は普通のことをしたくはないので、革新的なことをしたい。カウンターサッカーが勝つというベトナムの文化のなかで、ポゼッションを保持して、かつ強烈なプレスをかけて、相手を押し込んで、何点もとるというサッカーで勝つということにトライしたい。ベトナムではそれをやり切った人がまだいません。それをやり遂げたら、この国のサッカーを変えることになると思うんです。

今、ベトナムは代表監督にフィリップ・トルシエ(元日本代表監督)が就任し、変わろうとしています。そういうなかで、現代的なサッカーで、勝ちきるということをやったとすれば、おそらく、ベトナムサッカーを取り巻くさまざまな人の視点が変わる。そうなれば、いろんな意味で、僕がこの国、ハノイに貢献できたと思えるので。そういう指導者になりたいと思っています」

――リーグ再開が楽しみです。

「毎日が楽しみですよ。どんどん良くなっているという実感があるので。ベトナム語もわからないし、知っている人もいないからこそ、割り切れる部分がある。海外でプレーしている選手もそうだと思うんですが、そこへ飛び込んだら、もう自分の人生だけなんですよね。ここでダメだったら、腹をくくって帰国するしかない。日本とは違う覚悟で仕事ができるなと思います」

※3回目に続く

TEXT=寺野典子

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