都心に家を持ちながら、そこを離れた場所にも居を構える。そんな多拠点ライフを楽しみ尽くしている8名の仕事人のこだわりの邸宅を大公開! 旅先のホテルでは到底かなえることができない多拠点邸宅だからこその醍醐味に迫る。今回は、IT関連事業の経営者・S邸を紹介する。【特集 多拠点邸宅】
遊びと趣味がつまった場所でこそ学びが見いだせる
急勾配の坂を登ってたどりついた高台の邸宅。扉を開け玄関スペースからリビングへ向かうと、眼下に真っ青な海が飛びこんできた。
「いつか海の近くに家を建てたい。そんな風にぼんやりと考えていた時、たまたま訪れたこの土地で見た、この景色にひと目惚れしてしまいました。そこで、風景が主役となる家をつくろうと決めたんです」とはオーナーであるIT関連の事業会社を経営するS氏。
この邸宅のコンセプトを「風が抜ける空間」として、海側に大きな窓を設置した。玄関を頂上に、ダイニング、リビング、バルコニーまでは緩やかに段差がついているワンフロア。高い位置にあるダイニングからは、高台から覗きこむように窓の向こうに海が見え、そしてその段差をくだっていくごとに海に近づいていくような臨場感が味わえる。
またバルコニーに出てプールの奥、一段低い場所に設置されたBBQスペースに腰かけると、水の中から海を眺めている気分にも。まさにこの絶景をさまざまな角度から楽しめるよう考え尽くされているというワケだ。
一方、2階へ上がると、開放感のあるリビングとはひと味違う、趣味部屋が姿を現す。「私は趣味が多くて、ちょっとそれらが渋滞気味なのです」と笑うS氏の言葉どおり、その部屋には麻雀卓、高さ3m以上はあろうかという巨大スクリーン、ウイスキーやテキーラが飾られたバースペースと、大きなワンフロアにさまざまな趣味の要素が混在している。今後は大好きだという釣りやゴルフ道具も展示・設置していく予定だ。
趣味部屋を抜けると、マスターベッドルーム、バスルームへと続く。どちらも海側に大きな窓があり、「風が抜ける」というコンセプトを再び感じる構造に。
特にバスルームは海風を感じながら湯船に浸かれるとあってS氏お気に入りの空間だという。
仕事はすべて遊びの延長。オンオフは切り替えない
これまで年間の1/3以上を旅先で過ごしてきたS氏にとって、2023年に完成したこの邸宅が自身で建てた人生初の別荘だ。
「私の仕事は、インターネット環境さえあれば場所を選ばないので、これまでも東京に家はありながらも、旅先などで仕事をする生活をしてきました。けれどホテルなどは、結局は仮の居場所、真の自分の拠点ではありません。そして、経営者の諸先輩方の素敵な別荘にご招待いただくなかで、そのホスピタリティと創造性に感動しまして、私も自分の拠点と呼べる場所をつくって、人をもてなせるようにしたいと思うようになったんです」
ワインセラーには来客用に、300本のワインが収められ、2階にはふたつのゲストベッドルームも設ける。さらにジュリアン・オピーやバンクシーなど人気アーティストの作品も飾られ、訪れた人の目を愉しませる。
「私は基本的に、仕事はすべて遊びの延長と考えているので、オンオフを切り替える必要はありません。いつでも仕事に向かえますし、逆にどんな仕事も遊びのように楽しめます。だから実は遊びがつまったようなこの場所には、仕事のチャンスがたくさんある。
例えば、ワインやアートはまだまだ勉強中なので、ソムリエやアーティストに『ここに合うものはどんなものだと思う?』と聞き、教えてもらって、この場所を通してさらに学んでいるところ。ここで得た知識をきっかけに、仕事の新しいアイデアも生まれています」
絶景とともに人をもてなし、さまざまな遊びの要素のなかから学びを見いだす。海風を感じながら得たインスピレーションはすぐさまS氏の仕事へのエネルギーに変わっていくのだ。
The Essence of House
気持ちのいい風が吹き抜ける開放感
海からの風が家を流れるよう、壁を最小限にして、リビングダイニングはワンフロアに。
コレクター心を解放する場所
ワイン、ウイスキー、アートにゴルフや釣り道具など、家中に収集したものを配置。
徹底的に遊ぶためのこだわりの設備
大好きな映画を大迫力で見られるシアタールームや麻雀卓など、没頭できる場をつくった。
Data
所在地:神奈川県横須賀市佐島
敷地面積:659.64㎡
延床面積:395.21㎡
デザイン:T&C JAPAN秋葉達雄
設計者:エイケー
構造:RC造、地上2F建て
この記事はGOETHE 2024年3月号「総力特集:多拠点邸宅」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら