三代目 J SOUL BROTHERSのØMIがひっそりと楽しむ酒、そして自身をさらけ出したという著書への想いを、都内のとあるバーで語った。【特集 ニッポンのSAKE】
誰かと想いを共有する。酒はそのためのもの
小さなバーの扉をそっと開けて、いつもの席に座る。扉一枚隔てただけで、不思議と外の喧騒から隔離されたようなその場所で、今宵ゆっくりグラスを傾けるのは、強めにジンを効かせたマティーニか、ウイスキーのロックか。
「落ち着いて人ときちんと語りあえる、こういう静かで秘密めいたバーが最近は好きです。仲間と騒いで飲むお酒も楽しかったけれど、今はリラックスして会話を楽しみたいと思うようになりました。こういう場だと、仕事の話もできて、アイデアを交換することもできますしね」
三代目 J SOUL BROTHERSのメンバーとして14年目を迎え、ソロとしてだけでなく、近年はグループで発表する作品のコンセプトを考案するなど、クリエイティヴな面を支えるØMI。さらに2023年にデビューしたガールズグループMOONCHILDのプロデュースも手がけるなど、その活動の幅は広がっている。
舞台に立つプレイヤーとして、そして裏方で支えるつくり手として役割が増えていくなかで、自身の考えを整理するのが、こんな落ち着いたバーなのかもしれない。
「けれど、僕はひとりでお酒を飲むことはほとんどありません。考えを整理したい時、僕は誰かに会いたくなるので、その人たちと一緒にこういうバーに来てゆっくり話すんです」
酒は満遍なくひととおり嗜むというが、最近、特に好きなのはウイスキー。自宅にはヴィンテージウイスキーがコレクションされているという。
「大先輩のHIROさんから、ツアーを終えた際、年代もののウイスキーを何度かいただき、それを大切に置いてあります。生まれ年のワインをいただいたこともありました。HIROさんの想いも受け取ったようで、簡単にはその栓を開けることができませんので、必然的に増えていってセラーのコレクションになっています。これから大きな達成をなし得た日に、仲間と一緒に飲めたらいいですね」
今何をすべきか全力で考えて行動する
何を達成すれば、そのヴィンテージボトルの栓を開けるにふさわしいのか、ØMI自身もまだわからないという。それは常に、目の前のことに死力を尽くしているからこそ。
「すべての仕事で『これが最後だ』と思うようにしています。ツアーをやるのも、ステージも、毎回これが最後だと思って、悔いがないよう全力でやる。グループでの活動では、いい意味で爆発力を感じる時があって、僕もその渦の中にいます。
けれど、その瞬間はずっとは続かないとも考えていて。いい時間も悪い時間も、時は平等に過ぎ去ってしまうからこそ、今この時に何今何をすべきか全力で考えて行動するをすべきか、常に全力で考えて動いていかなければいけないと思うようになったんです」
そんなØMIが「これが自身の最後の本」という想いでつくりあげたフォトエッセイ『LASTSCENE』が、2023年秋に完成した。そこには、グループを去ることを考えていた日、かつての恋人とのエピソード、そして「これが最後」と考えるようになるきっかけとなった大事な人の死まで、包み隠さず綴られている。
「曲の場合もそうなのですが、まずタイトルやコンセプトとなる言葉を見つけて、そこから僕はいつも制作を始めます。今回、自分のすべてをさらけだす、その本のタイトルだと考えた時、『LAST SCENE』という言葉がすぐに浮かびました。ステージを降りたひとりの人間、その人生の大切なシーンを綴っていく、そしてそのすべての時間は、過ぎ去ってしまう。ひとつひとつがラストシーンなんだ、という感覚を持ってつくりあげました」
このフォトエッセイ集では、ELLY、岩田剛典、今市隆二らメンバーと杯を重ねたことで、大きな迷いから脱することができたエピソードもある。
「落ちこんでいる時に、久々にメンバーとグラスを傾けてゆっくりと話したんです。昼間の会議室では言えないことも、バーでなら言い合えた。僕にとってお酒って、誰かと想いを共有するためのものですから、メンバーがその時間を一緒に共有してくれたことで、僕は本当に救われたんです」
「自身の取扱説明書」とØMIはこの本のことをそう説明するが、クリエイターとして、自身のこともまた、グループをプロデュースするように客観視しているのだろうか。
「僕にはひとつの世界に没入できない部分があります。どこか引いた目で、自分も、自分たちの活動も俯瞰して見ている。表現者としてはひとつのことに没入して、行ききってしまったほうが本当はいいと思っているのですが、僕はどうしても自分でそこにストップをかけてしまう。でも、そういう自分だからこそ、プロデューサーとしての仕事など、自分に合った動き方があるのではないかと考えています。
といっても音楽プロデューサーとしてもまだ1年生、僕はまだ何もなし得ていません。デビューしたガールズグループに、自分の経験を伝えることくらいしかできていませんから、どちらかというと一緒に学んでいる感覚です」
裏方としてプロデュースを手がけるからこそ、「自分だったら何がやりたいか」と舞台に立つ、プレイヤーとしての自分自身に立ち返ることができる。さらには「自分もやっぱり舞台に立ちたい」という欲も出てくるのだと言う。
14年間活動できていることは奇跡で、一瞬一瞬が大切
現在は三代目J SOUL BROTHERSのドーム公演の真っ最中、その自分たちの表現を突き進んでいるところだ。
「2023年2月に『Land of Promise』というアリーナツアーをやらせていただき、今回のドームツアーは、そのストーリーの続きになります。この1年の集大成ということで『JSB LAND』というタイトル、コンセプトを僕が提案し、メンバーとつくり上げています。
やっぱり言葉が最初にあると、みんなも乗っかりやすいし、まとまりやすい。だから僕は言葉からエンタメをつくっていくんです。特に僕らの場合は、7人もいますから、レールをちゃんと敷いて、どこに向かって走っていくのか示さないと、バラバラな方向に走ってしまうかもしれない。みんな個性的なメンバーなので(笑)。
そしてこの公演は僕らのエンタメを爆発させるものになっていると思います。7人のメンバーが誰ひとり欠けることなく、14年間活動できているって奇跡のようなことですし、その一瞬一瞬はラストシーンとなっていく。そしてその『最後』の積み重ねが14年間という時間をつくったのだと思います」
喧騒から逃れた都会の小さなバー。ウイスキーの氷がゆっくり溶けていく静かな時間のなかで微笑むØMI。その光景はさながら戦士の束の間の休息、まるで映画のラストシーンのようだった。
ØMI
1987年東京都生まれ。2010年に三代目 J SOUL BROTHERSのボーカリストとしてデビュー。2017年よりソロプロジェクトを始動。2021年活動名を登坂広臣からØMIに変更し、自身が手がけるプロジェクト「CDL entertainment」が本格始動。LDHのオーディション「iCON Z~Dreams For Children~」で審査員を務め、現在、ガールズグループMOONCHILDをプロデュースする。
この記事はGOETHE 2024年1月号「総力特集: ニッポンのSAKE」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら