PERSON

2023.11.16

男性も着られるドレスが海外でも話題! “脱サラ”デザイナー・進美影のファッションの本質

26歳で一般企業を辞め、アメリカのパーソンズ美術大学に入学。自らのブランド「MIKAGE SHIN」を立ち上げ、NYやパリのファッションウィークにコレクションを発表してきた進美影に、デザインの本質や“ダイバーシティ”の意義について聞いた3回目。【#1】【#2■連載「NEXT GENERATIONS」とは

進美影/Mikage Shin
1991年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、一般企業に入社。退社後、2017年にNYのパーソンズ美術大学に入学し、New York Fashion WeekやParis Fashion Weekなどで、自身のコレクションを発表。日本だけでなく「VOGUE ITALIA」や「ELLE」など、海外のメディアにも多数取り上げられる。

パーソンズ美術大学への留学とコロナ禍での帰国

世界3大美大のひとつと呼ばれる、NYのパーソンズ美術大学に26歳で留学した進美影。そんな初めてのアメリカ生活で、最も大きなカルチャーショックを受けたのが、すべての人に対して“フラット”な人間関係だった。

「そもそも女性の扱われ方がNYと日本ではまったく違いました。日本だと女性はまず見た目が可愛いかで判断されることが多い気がして、品定めされている感覚がありました。でも、NYだとそういうルッキズムを感じることがほぼありませんでした。

また、パーソンズ美術大学には、さまざまな国籍やバックグランウンドを持つ生徒が在籍しており、現在のファッションのメインストリームなどを気にせず、純粋にクリエイティブについて議論をできるクラスが多かったです。それぞれの文化や思想を尊重しながら、お互いの意見を出し合える環境でした」

愛知県の伝統工芸である「有松絞り」で作られたアームグローブ。10色以上で展開されている商品は、女性だけでなく男性にも人気が高く、有名アーティストの舞台衣装としても多数使用されている。

多様な価値観を持つ生徒たちが活発に議論をする授業スタイルに、初めは少し戸惑うこともあったという進だが、意外にも幼少期の“転校経験”が役立ったのだとか。

「日本だとよく言われることですが、空気を読んで同調的にしていた方がコミュニケーションが円滑にいく。でも、アメリカだとむしろ意見を出した方がコミュニケーションが上手くいくんです。逆に、意見がないと議論の場に参加している意味がなくなってしまう。本当に真逆のスタイルでした。

私は小さい時に転校が多かったので、クラスの輪の中に入っていくことは比較的得意でした。むしろ、日本の学校で手を上げて質問すると、『なんでそんなに積極的なの?』と変な目で見られたり(笑)。そのため、『自分がこんなにフィットする場所があったんだ』と驚きました」

大学卒業後、2019年10月に自身のブランド「MIKAGE SHIN」を立ち上げた進は、すぐにNYのファッションウィークでコレクションを発表。パリやカナダのファッションショーにも呼ばれるようになった。

パリのファッションウィークに出展されたMIKAGE SHINのコレクションは、現地のメディアにも広く取り上げられた。

しかし、2020年に突如として日本への帰国を決意。その理由のひとつが、世界的なコロナウイルスの感染拡大だった。

「最初から国内外を問わず活動できるデザイナーを目指していたので、日本に帰る予定はもともとなかったんです。でも、2020年3月にNYがロックダウンになってしまい。

日本では、コロナ禍でもビジネスを並行して続けられそうだったので、拠点を日本に変更しようと考えました。コロナで、それまでの人生プランが大きく変わりましたね」

その後、NYから帰国した進は、東京を拠点にデザイナー活動を再開。2023年9月には、青山に「MIKAGE SHIN」の初となる直営店をオープンさせた。

国内の刺繍職人と制作した服は、シフォン生地のシャツにウールの刺繍をすることで、軽いニットのように仕上がりに。パールのボタンを用いることで、よりエレガントな印象になっている。

本質的に良いファッションとは何か

「なかには“ファッションに熱狂する奴なんて感覚的で少しバカっぽい”って考える人もいると思うんです。でも、ファッションって、実はすごく知的でクリエイティブな創造活動で。自分自身の内面性や考え方をアウトプットとして表現するのって、すごく難しいことなんです」

そう語る進は、これまで単に新しいスタイルやデザインを提案するだけでなく、着る人が尊敬されるようなブランドとしてのあり方を模索してきた。

「例えば、今日着る服を選ぶ時には、誰と会うか、どこに行くか、天気や時間はどうか、そこでその人にどう見られたいかなど、シチュエーションを考えながら、いろいろな思いを逡巡(しゅんじゅん)させて決めているはずです。

言い換えれば、ファッションは、その日その日の自分の生き方のプレゼンテーションを集約したアート。だからこそ、ファッションを生み出すブランドは、着る人が単に容姿ばかり気にする軽薄な人と誤解されず、むしろリスペクトされるような本質的に“良いもの”を作ることが大切なんです」

19世紀の精神学者のカルテをデザインに使用したジャケット。頭に浮かんだことを書き続ける“ハイパーグラフィア”の患者が書いた文字からは、その瞬間を生きようとする患者の息遣いが感じられる。

2021年に発表されたコレクションでは、すべての服をリサイクル素材から作るなど、進はこれまでサステナブルなデザインを数多く提案してきた。しかし、さまざまな環境配慮への取り組みを調べていくなかで、現代のサステナビリティの考え方に疑問を持つようになったという。

「動物の皮から作られるリアルレザーは、動物愛護の観点等から敬遠されがちですが、いろいろ調べてみると人工の合成レザーは石油が原料のため、半永久的に地球に残存してしまうという説もあります。

それなら、精肉場の食品残渣(ざんさ)を使用したリアルレザーの方が、天然のものなのでいつかは土に還るし、捨てられるものを使っているので倫理的だという考え方もあって。捉え方によって、それぞれの“正解”が変わってくる危うさがあると感じました」

宇宙をコンセプトに、元素記号や幾何学模様がデザインされたイヤーアクセサリー。メタリックな素材を使用しているが、中心が空洞になっているうえ、イヤーカフにすることで耳への負担を軽減させている。

自分たちの活動が本当に社会のためになっているか、常に視点を両義的に変えながら確認することが重要。そう考える進は、サステナビリティとは別に、大切にしているデザインの“基準”があるという。

「そもそも資本主義のプロセスにおいて“正しい生産”がありえるのか、人間がすべての経済を回さないことが一番地球に良いのではないかと考えることがあります。でも、そうしたらファッションなんて作れなくなるし、他の経済活動も立ち行かなくなる。ならば、少しでも自分の経済活動に意義を見出したい。

この世に完璧な“正義のビジネス”は存在しないけれど、たった1着の服が、たったひとりの人生とその1日を救うこともある。好きなものを着ることで、自分に自信が持てる。そういう自己肯定感を生み出せる情緒的な価値って、ファッションにしかできないことだと思います」

ファッションに救われた自身の経験を、他の人も体感してほしい。ファッションの本質は、人々に自信を与えて幸せにすることだと考える進は、これからも人々がより輝けるデザインを目指して挑戦を続けていく。

■連載「NEXT GENERATIONS」とは
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10〜20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。

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TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

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