芸人・太田光でも作家・太田光でもないプライベートの太田光は、いったいどんな人なのだろう。田中裕二とのお笑いコンビ・爆笑問題はデビュー35周年。太田は2023年で58歳になる。なかなか見えてこない“オフ”の一面を覗き見るべく、同年代として同じ時代を駆け抜けてきたゲーテ統括編集長・舘野晴彦が、太田光のプライベートの顔に迫る──。動画連載「2Face」とは……
田中裕二とのネタ作りはほとんど無駄な時間!?
芸人、タレント、司会者、作家。いくつもの顔を持つ仕事人としての太田には、常にクリエイティブで、常にストイックで、常に研ぎ澄まされている印象が強い。ふと心を解き放ち、落ち着ける瞬間はどこにあるのか。舘野がそう水を向けると、太田はニヤリと笑って"この後の予定"を話した。
「いやいや、ボーっとしてますよ。結構ね。今日もこれから田中とネタ作りなんですけど、たいていの時間は田中とのムダなやり取りに費やしているんです。『お前、なんでそんなにブサイクな顔してんの?』『うるさいな!』とか、ネタ作りを一向にやらないで、そんなやり取りばっかりなんだよね(笑)。『なんでこのお菓子買ってきたんだよ!』とか、ネタを作るのが面倒くさいからとにかく違う話をしたくなる。そんなことばっかり」
日本大学芸術学部演劇学科で知り合った田中裕二とのお笑いコンビ・爆笑問題は2023年で35年を迎えた。ずっと変わらない関係性のまま流れていく時間を「ほとんどがムダ」と笑うが、きっとそのムダな時間もエネルギーの源になるのだろう。やはり、ふたりの関係性は不思議で特別だ。
爆笑問題がデビュー35周年を迎えるのだから、当然、太田も田中もいよいよ"いい年齢"になってきた。
太田は2023年5月で58歳。そうはいっても舞台上で大立ち回りを演じる破天荒キャラの太田だから、「健康」について考えることなんてないのだろう――と思ったら大間違い。むしろ切実に痛感している……らしい。
「俺らは割と長尺の漫才をすることがあるんです。年に1回。1時間半くらいの漫才なんだけどね。で、ある時から漫才をやっていて息切れするようになったんです。その瞬間から『これはもしかしたら……』と感じるところがあって、このまま漫然とやっていたらできなくなるかもしれないと思ったんですよ。そこから筋トレとか、いろいろと毎日やるようになって……それでもやっぱり、息切れするな、最近は(笑)。
俺は特にムダな動きが多いんで、客席に飛び込んだり何かしらやるんですよ。あっちこっちへ走り回って、それから『てことで始まりました』となる。その時には息切れしちゃってるんだよね。漫才の冒頭からセリフが言えなかったりして、最近はそれが多くて『はぁ、はぁ、というわけでございまして』なんて始めようとするの。さすがにそれは、何とかしなきゃと思ってますね。というか、暴れるのをやめりゃいいだけの話なんだけど(笑)」
狙うは直木賞!?
たとえ息切れを起こしているとしても、舞台に立つ太田は35年前と変わらない勢いでハツラツとしている。しかしその一方で、プライベートの太田は同年代と同じく"老い"と向き合う一面もあるのかもしれない。
「ただ"怖い"というより、何かそれなりの向き合い方があるんだろうなと思ってますよ。2022年、田中が脳梗塞とクモ膜下出血で倒れて、その後は少し、漫才の喋りのテンポをゆっくりに変えたんです。"タタタタタ"というやり取りを、『はい、というわけでね、大変ですよね、デヴィ夫人がウクライナに行きましてね』みたいなペースに変えてみた。
どうしても、テンポの速い若手の中に入ってやっていると、こっちもつられてガンガン行かなきゃみたいなところがあったんです。でも年齢に合ったテンポってものがあるんじゃないかなと思うようになって。我々の漫才って、遅くなったり速くなったり、そもそも時期によってぜんぜん違うんだけど、そういう部分にも何らかの工夫のしようがある気はしていますね」
思いつくことは何でもチャンレンジしてきた印象が強い太田に、舘野は「これから先の楽しみは?」と聞いた。
「楽しみなこと……やっぱり直木賞の発表かな。だから、ちょっと読み比べてほしいね。どっちが人間を描けているかさ。村上くん、頼むよ! 」
11年ぶり3作目の書き下ろし小説『笑って人類!』は2023年3月に発売。約1ヵ月後に、村上春樹の長編小説が刊行される。
「俺、ホントにね、何か出すと必ず話題作と同じタイミングだったりするのよ。『マボロシの鳥』の時は水嶋ヒロの『陽炎』が出て、全部話題持っていかれてヒドい目にあったんだから。今回も村上春樹が出すって聞いて、またか、と思ってるんですけど」
とはいえ、もちろん読む。
「そうね。出たら速攻で絡んでいきたいと思いますよ。向こうはイヤだろうけど。でもまあ、セットで買っていただきたいよね。どうせ向こうは初版で100万部くらい刷るでしょ? オマケにしてもらってもいいよね」
相方の田中裕二とじゃれ合うようにして漫才のネタを仕込み、舞台での息切れを気にして自宅では階段の上り下りをしてみたりする。プライベートでも仕事のこと、漫才に対する工夫や小説のアイデアが頭の中をぐるぐるとめぐっているのだろう。破天荒イメージが強烈な太田光のプライベートの顔は、"仕事を遊ぶ"生粋のエンターテイナーの顔だった。
Haruhiko Tateno
1961年東京都生まれ。'93年、創立メンバーの一人として幻冬舎を立ち上げて以来、各界の表現者たちの多彩な作品を世に出し続ける。2006年に『GOETHE』を創刊し、初代編集長も務めた。
動画連載「2Face」とは……
各界の最高峰で戦う仕事人たち。愛する仕事に熱狂する姿、普段聞けないプライベートな一面。そんなONとOFFふたつの顔を探ると見えてくる、真の豊かな人生に迫る。