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2023.03.09

WBC日本代表にまで上り詰めた、阪神ドラフト6位・中野拓夢の学生時代

2023年3月8日に開幕するWBC(ワールドベースボールクラシック)。今大会に出場する侍ジャパンのメンバーは平均年齢27.3歳(2023年の満年齢)と過去4大会と比べて最も若くなったが、野手で牧秀悟(DeNA)と並んで最小となるキャリア3年目で代表入りを果たしたのが中野拓夢(阪神)だ。今回はそんな中野がスターとなる前夜に迫る。連載「スターたちの夜明け前」とは……

決して目立つ存在ではなかった高校・大学時代

2020年のドラフト6位という低い評価でのプロ入りながら、1年目からショートのレギュラーに定着すると30盗塁をマークしていきなり盗塁王のタイトルを獲得。2022年は2年連続の盗塁王こそ逃したものの、セ・リーグで3位となる157安打を放ち、リードオフマンとして見事な活躍を見せ、ショートのベストナインにも輝いた。

しかしドラフトでの順位も高くなかったことからも分かるように、アマチュア時代は早くから高い注目を集めていた選手ではない。初めてそのプレーを見たのは日大山形2年時に出場した2013年の夏の甲子園だ。セカンドのレギュラーとしてプレーし、チームは山形県勢初となる準決勝進出を果たしているが、目立っていたのは1学年上でショートを守り、高校からプロ入りした奥村展征(現・ヤクルト)の方で、正直、中野のプレーはほとんど印象に残っていない。甲子園での打撃成績も4試合で16打数3安打、打率.188、盗塁0という寂しい数字に終わっている。

東北福祉大進学後も1年春からリーグ戦デビューを果たしたが、選手層の厚いチームということもあって下級生の頃は完全なレギュラーではなく、ようやくその存在を強く意識し始めたのは3年生になってからだ。2017年5月29日に行われたリーグ戦優勝がかかった仙台大との試合では2番、ショートで出場し、この年のドラフト1位でプロ入りする馬場皐輔(現・阪神)から先制点の足掛かりとなるツーベースを放つ活躍を見せているが、目立っていたのは守備の方だった。

当時のノートにも「小柄だがプレーのスピード感が素晴らしく、細かいステップができるフットワークが目立つ。送球の強さも申し分なく、三遊間の深い位置からも見事なボールでアウトに。打撃にミート力はあるが、インパクトの強さがない。力強さが出てくれば面白い」と打撃に関して評価する記述はあまり残っていない。

この後も大学を卒業するまでに4試合、中野のプレーを見る機会があったが、印象が変わることはなかった。ちなみに大学時代は実際の試合では左打席に入っていたが、パンフレットには右投両打と書かれており、打撃については試行錯誤していた様子がうかがえる。

プロで通用するレベルまで急成長した社会人時代

ようやくドラフト候補として注目されるようになったのは社会人野球の三菱自動車岡崎に進んでからだ。1年目からショートのレギュラーに定着すると、シーズンオフに行われたアジアウィンターリーグでは社会人選抜チームのメンバーに選出。17試合に出場してチームトップの26安打、打率.371という見事な成績を残して見せたのだ。この大会の活躍によってプロのスカウト陣からその名前がよく聞かれるようになった。

そしてドラフト前に最後にプレーを見たのが2020年9月15日に行われた都市対抗野球東海地区二次予選、対ジェイプロジェクト戦だ。この試合で中野は3打数ノーヒット、1死球に終わったが、第3打席ではあわやホームランという大ファウルを放つなど、大学時代とは別人のような力強い打撃を見せている。

当時のノートにも「初球から積極的に振ることができ、インパクトの強さは社会人の中でも目立ち、3番という打順でも全く違和感がない。凡打も内容が良く、あわや長打という当たりを連発。守備も動きの良さに加えて体の強さが出てきたように見える。素早く動いてバウンドを合わせることができ、送球から捕球の流れもスムーズ。プロでもショートで勝負できそう」というメモが残っている。

冒頭でも触れたようにドラフト6位という評価にはなったが、この年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの大会が中止となり、社会人最大の大会である都市対抗野球も12月にずれ込んだという不運もあったはずだ。もし例年通りのスケジュールで大会が消化されていれば、もっと高い順位でプロ入りしていた可能性もあっただろう。

2023年からはチーム事情もあってセカンドに回る予定だが、高校、大学、社会人で二遊間の両方をしっかりこなしてきているのは大きなプラス材料だ。また社会人では国際大会も経験しているだけに、WBCでも持ち味を十分に発揮して、侍ジャパンの勝利に大きく貢献してくれることを期待したい。

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる!

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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