PERSON

2022.12.06

【松山ケンイチ】4年間の移住生活で見つけた“命”を感じる生き方

唯一無二の存在感で、数多くの話題作に出演する俳優の松山ケンイチ。そんな彼が興した獣皮(じゅうひ)のアップサイクルブランドが、じきお披露目となる。すでに知られた二拠点生活のリアルとともに、ブランドにかける想いを語る。

熱狂人生。松山ケンイチ

自然と対峙することで見えてきた深刻な課題

コロナ禍を経た社会全体のワークライフバランスの劇的な変化で、都市と地方を行き来するデュアルライフ(二拠点生活)が注目を集めている。都会人の羨望の的でもある理想のライフスタイルを、4年前にいち早く実践したのが、俳優の松山ケンイチだ。家族とともに自然豊かな場所に移住し、畑で農作物を作りながら、冬の閑散期には狩りもする。そんな彼が2022年の春にローンチしたのが、獣皮の利活用を目的としたアップサイクルブランド『momiji』だ。原料となる革は、彼自身が狩りで仕留めたシカなどの獣皮を鞣(なめ)したもので、そこには作物を荒らす害獣として駆除された個体も含まれる。彼が地方で生活を続けていくなかで気づきを得て生まれたプロジェクトでもある。

「僕は16歳で上京しましたが、東京の生活は物珍しさや初めて見るものばかりで、新鮮かつ楽しいものでした。そのうちたくさんの人に恵まれ俳優の仕事も軌道に乗り、毎日仕事ばかりして過ごすようになってくると、居方というか生活のスタイルが、自分の価値観とはかなりかけ離れたものになっていたことに気づいたんです。自分の原風景は生まれ育った田舎の生活のなかにあって、都会では安らぎを全然見つけられなかった。物質的な豊かさはありましたけど、心の豊かさはなかなか得られない。

そうしているうちに子供が生まれ、育てていくうちに、自分が都会では見つけられないものを彼らと共有するのがいかに難しいことかを悟ったんです。田舎では祖父が農業を営んでいて、自然と対峙しながら暮らしていくことはずっと興味がありました。だったら都会と田舎の両方の豊かさを子供にも経験させて共有すればいいと思ったのが、移住を決めたきっかけです」

熱狂人生。松山ケンイチ

たしかに俳優の仕事は、決められた時間にセットに入り、拘束時間も昼夜を問わない過酷な職業である。出演を求められ、創造的なスタッフと作品を創り上げることのやりがいは感じつつも、一方では自分のペースで生活したいという気持ちも常にあったと松山は語る。

「とにかく、仕事のことだけを365日考え続けることのない生活がしたかったんです。自分自身にきちんと立ち戻る時間を作らないと、育児なんて到底できないこと。どの仕事でもそうだと思いますが、全身全霊を仕事に持っていかれたら、家に帰ると吸い殻のようになってしまいますよね。そういう状態でしか子供と接することができないのはすごく悲しいし、もったいない。子供と一緒に何かをし、日に日に成長する彼らを観察することで学ぶことも自分には必要だと思ったのも大きいです」

そう決心をしてスタートした二拠点生活は実践してみると、生活のリズムも含めて思いがけないことも多く、試行錯誤の連続だったと振り返る。そうして一年の半分を地方で生活することになった松山だが、アップサイクルブランドを興すことになったきっかけは、移住前から始めていた狩猟(ハンティング)が大きく関わっているという。

熱狂人生。松山ケンイチ

松山は狩猟をするうえで、安全や法令遵守の観点からできるだけ単独では行わないようにしている。

「僕は30歳からハンティングを始めました。狩りの師匠は料理人だったので、仕留めたものは全部自分で解体して、肉にして食べたり、振る舞ったりしていたんですよね。その技術が素晴らしく、僕も仕留めた獲物を解体場で一緒に皮を剝ぐところから教えてもらったりしていたんですが、皮はいつも捨てていたのがすごくもったいないと思っていて。

個人のハンターが捨てるぶんには数頭分ですが、大規模なジビエの解体場になると一日に10頭ぐらいになる。さらに農作物を荒らすために害獣駆除として獲られたものも含めるとかなりの量が出ます。それを捨てるとなると産業廃棄物となって、産廃処理をしなくちゃいけない。そうなるとキロ幾らかで引き取られて燃やされることになり、処理料は解体場が支払う場合もあるし、自治体、つまり税金で賄われることもある。焼却することでCO2も出るとなれば、結果的に次世代に負担を課すうえに、環境問題にもなってきます。捨てられるだけだったものをアップサイクルで役立てるという活動はそれまでいろんなところでも見て知っていたので、自分も同じことができないかと動いてみたのが始まりです」

【後編に続く】

Turning Point〜豊かな自然の中での出会い〜

熱狂人生。松山ケンイチ

1.地方のコミュニティーにすんなりとなじめたのも、周りの人たちに恵まれたから
「狩猟の師匠は、森田芳光監督の知人で、妻が出演した作品でロケをした縁で紹介してもらったのがきっかけです。銃猟免許の取得には一年ぐらいかかりました。他のハンターさんの話を聞くのも面白いし、狩猟には子供を同伴させたりもしています」と松山。実際にハンティングしている現場を見せることで、子供に命の尊さや限りある資源との向き合い方なども勉強させたいとも語る。

熱狂人生。松山ケンイチ

2.狩りの師匠と獲物を解体するなかで、それまで捨てるばかりだった皮を、どうにか活用できないかと考えた
農作物を食い荒らす害獣として駆除されたり、狩猟で獲った野生のシカの皮は、傷だらけで個体差がある。安定供給が難しく、今までほとんど誰も商品にしようとはしなかったのも松山のやる気を後押しした。皮の鞣しをしてくれるタンナーにも自分でアポイントを取り、小物やアウターに仕上げるには、知人から紹介された縁をつなげた。試行錯誤を繰り返すことで納得のいく製品に仕上がったという。

Kenichi Matsuyama
1985年青森県生まれ。2002年にドラマ『ごくせん』で俳優デビュー。以後、映画、ドラマ、舞台など話題作に出演。2018年には、家族で東京と自然豊かな田舎での二拠点生活を始める。’23年3月、葉真中顕のサスペンス小説原作の主演映画『ロストケア』が公開予定。

銀座和光にてポップアップを開催

熱狂人生。松山ケンイチ

モミジ レザーアイテムコレクション
2022年12月8日(木)〜21日(水)

銀座和光で開催されるポップアップでは、momijiが手がけたシカ革を選んでアイテムのオーダーが可能。ウィンドウディスプレイでは、14日まで松山ケンイチ自身が描いたアートワークが展示され、独自の世界観が体感できる。

モミジ×トーキョーハット 帽子コレクション
トーキョーハットを展開する店舗にて、順次帽子コレクションのポップアップを開催している。詳細は、トーキョーハットの公式ホームページよりご確認ください。

TEXT=畠山里子

PHOTOGRAPH=廣瀬順二(portrait)、SAI(Photograph/location)

STYLING=五十嵐堂寿

HAIR&MAKE-UP=五十嵐将寿

COOPERATION=杉山絵美

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