アスリート、文化人、経営者ら各界のトップランナーによる新感覚オンラインライブイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第5弾が、11月14日から6日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、漫画原作者/小説家/脚本家の樹林伸さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※'22年11月20日〜11月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より
諦めない「粘り」が成功を生む
これまで天樹征丸(あまぎせいまる)名義の『金田一少年の事件簿』や亜樹直(あぎただし)名義の『神の雫』など、様々なペンネームで漫画や脚本の原作を担当させていただきました。ペンネームを使い分けるのは、同じ雑誌で名前がダブらないようにとの配慮と、新しい作品に臨む時は新人と同じ気持ちで挑みたいと思ってのことです。
大学卒業後、講談社に入社。最初の成功体験は、安達哲さんと組んだ『ホワイトアルバム』という作品です。当時、僕は新人編集者で、安達さんも新人漫画家。一緒にストーリーを考え連載に臨みましたが、評判はよくありません。連載漫画は各号ごとに読者の人気ランキングが出ますが、『ホワイトアルバム』は最下位の20位前後。連載開始からわずか3回で打ち切りが決まってしまいました。
でも、なんとか連載を続けたい。編集会議で「やらせてください」と頼み込んだところ、先輩編集者が味方になってくれました。「新人2人がやっているんだから、続けましょう」と。その結果、連載は14話まで続くことになったんです。
安達さんと相談し、アイデアをひねり出し、話をすべて作り直しました。ラブコメ要素を追加し、小さな笑いが取れるネタを盛り込んだ。『ホワイトアルバム』は11話目で20位から7位へジャンプアップ。その後、2位、4位と好成績が続き、最終14話はトップを獲得しました。
諦めたら、そこで終わり。何事も諦めずに、あと5分粘ってみる。10のエネルギーで限界だと思っていたのを何とか11まで出してみる。粘り通せば、たとえ結果はダメだったとしても後悔しないで生きていけると思います。
誰も見たことがないものを作る
編集者としてキャリアを積み重ねていくうちに、ヒットの法則が見えてきました。自分がいいと思うだけでなく、読者の姿をイメージすることが大切。柔軟性をもって作品を作り上げることが重要だと感じるようになりました。それと、「見たことがないものをやる」という意識。ヒットする漫画って、たいてい今まで存在してなかったものなんです。そこに怖がらずに挑むことができるか。それが売れる作品を生み出す秘訣です。
1992年に『金田一少年の事件簿』が始まった時、漫画の世界には本格ミステリーがありませんでした。だから、挑戦する価値があるなと。ただし、実際に始めてみると、想像以上にたいへんな仕事でした。それまで手がけてきた漫画は、連載中にストーリーの変更や最終的なつじつま合わせができる余地があった。でも、ミステリーは初めにしっかりとしたストーリーを完成させておく必要がある。最初のトリックづくりが肝心なんです。
数多くの作品を発表してきて、「アイデアは尽きないのか」と聞かれます。僕のアイデアは決して尽きませんね。アウトプットと同時に、インプットを行っているからです。これは決して難しいことではありません。仕事をしていると、知らないことがたくさん出てきます。たとえば、新聞や雑誌を広げて必要な情報を得ようとすると、ほかの記事も目に入ってくる。その都度、関心を持って調べると、それが新しいアイデアにつながります。アイデアが湧いてこないという人は、アウトプットを心がけるといい。アイデアを出すことで、代わりのアイデアが溜まってくるものです。
大切なのは「知ろう」という気持ち。何でもかんでも知りたい。そんな知的好奇心とともに生きていくことが大事です。
樹林伸さんの講義全文を動画でチェック。※2022年11月20日〜11月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内右上もしくは下の「視聴登録はこちら」より
Shin Kibayashi
1987年講談社に入社。編集者として『シュート!』『GTO』など数々の人気作を手掛ける一方、『金田一少年の事件簿』では原作も担当。独立後も『神の雫』や『エリアの騎士』などヒット作を連発する。また、漫画原作のみならず、小説の執筆や脚本など幅広いジャンルで活躍している。