三好康児、武藤嘉紀、中島翔哉、柴崎岳……。己の成長、その先にある目標を目指して挑戦し続けるフットボーラーたちに独占インタビュー。さらなる飛躍を誰もが期待してしまう彼らの思考に迫る。3人目は、その動向が気になるポルトガルのFCポルトに所属する中島翔哉。3回目。
中島翔哉、強気な発言からの変化の理由
「サッカーを楽しむことが大事」と笑顔で繰り返す現在の姿からは想像できない人もいるかもしれないが、10代の頃の中島翔哉は尖りまくっていた。ギラギラとした野心を隠そうともしない、という表現がぴったりなほどに――。
2011年にメキシコで開催されたU-17ワールドカップに16歳で出場し、高校3年で東京ヴェルディとプロ契約を結んだ中島は、19歳のときにU-21日本代表の一員として’14年1月のU-23アジア選手権に参加した。
この大会で4試合に出場して3ゴールをマークするのだが、そのプレーだけでなく、強気な発言でも取材陣を驚かせた。
「今年ワールドカップがある。選手なので、当然そこは意識しています」
「バロンドールも通過点だと思っています」
「この大会で人生を変えるつもりでやっている」
だが、’14年9月、仁川で行われたアジア大会でのことだ。思ったことを口にする奔放なスタンスが、ちょっとした騒動に発展してしまう。
1-3で敗れたイラク戦の翌日、決定的なチャンスに恵まれない現状に対する中島の苦言が、チームメイト批判としてネットニュースに取り上げられ、大きな反響を呼んだのだ。その直後から、中島は口を閉ざしてしまった。
幸運にも独占インタビューをする機会に恵まれたのは、大会が終わってしばらくした頃だった。そこで聞いた彼の話は、今もはっきりと覚えている。
「僕は、ただうまくなりたい、もっと上に行きたいっていう気持ちを言葉にしていただけで……。でも、ちょうどあのあと、信頼している人から連絡があって。『運や他人ありきで目標を立てるのは、それこそブレてるよ』って言われて、たしかにそうだなって。目標設定の仕方が間違っていたことに気付きました。今までは、それありきで目標を立てていたんですけど、自分個人として考えた時に、自分の思い描いたプレーをする、どんなときも楽しんでサッカーをする、それを可能にするための実力を付けることが何よりもまず大事なことだって気付いたんです」
20歳になった中島は、誤解を招かないように言葉を探しながら、そう告白した。そして、それ以降、「サッカーを楽しむことが大事」と繰り返すようになっていった――。
あれから8年が経つ。「当時話していた“信頼している人”というのは、当時の彼女、今の奥さんですか」と訊ねると、中島は「そうですね」とうなずいた。
とはいえ、長年かけて築いた価値観や考え方は、すぐに変えられるものではないだろう。やはり、中島も時間を要したようだ。
「徐々に、かなり徐々にですね。もともと『これは違う』と言われると、全部反発するタイプなので。人の言うことを、全然聞かないんですよ(苦笑)。だから、最初はそんな感じでした。でも、身近な人のほうが自分のことを分かっている場合ってあるじゃないですか。背中にゴミが付いていて、自分では気付かないけど相手は気付く、みたいな」
実際に、「楽しむこと」「少しでもうまくなること」を目標に掲げてプレーするようになってから、状況が好転していく感覚があったという。逆に言えば、高い目標を掲げていたときは、自分で自分にプレッシャーをかけて、力が入りすぎていたのかもしれない。
「いろいろ試してみたんです。険しい表情で試合に臨んでみたり。でも、うまくいかなかった。公園でサッカーをするような感じでスタジアムでプレーするほうが、結果的にチームが勝ったり、周りも何かを感じ取ってくれることが多いんです、僕の場合は。試合中にヘラヘラしてるんじゃない、と思う人もいるかもしれないし、タイプによると思うんですけど、ただ、遊び心、子ども心って大事だと思います。若い頃はもっと遊び心を持っていたし、子ども心や遊び心を持ってプレーできると、気持ちに余裕が生まれるというか」
そこで中島は突然、お気に入りだというドラマの話を始めた。コミックが原作で、女優の杉咲花が主演し、King & Princeの平野紫耀と俳優の中川大志が脇を固めた『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』である。
「『花晴れ』っていうドラマ、知ってます? 神楽木っていうのがいて、『好きな女の言ってること信じなくてどーすんだよ!』って言うシーンがあって、そこが僕、好きなんです。『そんなの一択だろ!』って。僕と妻の関係もそうだなって。信じてよかったなって思います」
プロ選手として、中島翔哉がサッカーを楽しむためにしていること
もっとも、「サッカーを楽しむ」と口で言うのは簡単だが、その状態になるのは簡単ではないという。
「自分に『今日はサッカーを楽しむぞ』って言い聞かせるのは、もう嘘じゃないですか。僕の場合、いろいろと考えてしまうと体が動かなくなるし、真面目にやりすぎるとプレーがつまらなくなっちゃう。いかに自然に楽しむ状態になって、遊び心を持てるか。子どものときって、それこそ夢中になって朝から晩までボールを蹴ったりする。ああいう状態になるのがいいんですけど、言葉では説明しにくいですね」
中島の場合、試合で無心になってサッカーを楽しむためのカギを握るのはトレーニングだ。試合中とは対照的に、練習では徹底的に頭を使い、細部まで意識を張り巡らせている。
「練習では、子どもの頃から染み付いている癖みたいなのを直す作業をやっています。ステップワークの無駄な動きをなくすとか、それこそ、足の着き方まで意識して。そこまで徹底的に考えて練習して、試合で自然と体が動くようになるのが理想です」
無心に体が動き、子どものように夢中でボールを追いかける。それが、中島にとっていわゆる“ゾーンに入る”状態なのだ。
プレーの質も勝敗の責任も問われないサッカー少年ではなく、プロ選手としてサッカーを楽しむために、中島は日々のトレーニングに励んでいる。
4回目に続く。
中島翔哉/Shoya Nakajima
1994年東京都生まれ。東京ヴェルディ、FC東京などを経て、2017年、海外に移籍。ポルトガル、カタール、UAEなどでプレー。2022年8月現在、ポルトガルのFCポルトに所属。U17をはじめ、各年代で日本代表に選ばれ、2018年A代表デビュー。森保一監督体制の初陣では、10番を託される。 ※2022年9月8日、トルコスュペル・リグのアンタルヤスポルと2年契約を結ぶ。