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2022.07.26

子どもとの対話は恋愛をイメージせよ──映画監督・豪田トモ×作家・水野敬也

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」。映画監督・豪田トモ氏と、ベストセラー作家・水野敬也氏の対談最終回は、映画『こどもかいぎ』のテーマでもある「対話」について。【過去の連載記事】

豪田トモ&水野敬也

「あるイベントで『こどもかいぎ』を開催した時、『ゲームよりずっと楽しい!』と言ってくれて。子どもに快感を与えられるなんて、僕にとっても初めての経験でした」(豪田トモ氏・写真左)
「子どものためなら、親は、これまで培ってきた資本主義的な考えをすべて投げうつことができます。子どもは、社会や世界を変えるキーワードになりますね」(水野敬也氏・写真右)

意中の人を落とすつもりで対話する

豪田 『こどもかいぎ』は、撮影に丸1年、編集作業に3年かかったんですが、その頃、娘は7~10歳で、僕とはあまり話をしてくれない時期だったんです。それで、編集をしながら、会議を回すファシリテーターを務めていた保育士さんたちの言動を分析し、対話の仕方を学ばせていただきました。

水野 何か秘訣があるんですか?

豪田 最初は、イエス・ノーで答えられるクローズドな質問から入って、何度かイエスを言わせた後、「どう思った?」みたいなオープンな質問で、自由にしゃべらせたり、相手の言葉をオウム返しに繰り返したり。「たとえば?」とか「それで、それで?」という言葉を効果的に入れ込んだり。それを武器に、娘に話しかけているうちに、だんだん会話ができるようになりました。最近は、ウクライナ情勢について、ふたりで話しましたね。

こどもかいぎ

保育士さんの促しに、子どもは自分の意見を躊躇わずに述べる。映画『こどもかいぎ』より。

水野 ウクライナ情勢! それはすごい!

豪田 おすすめは、子どもが好きなこと、興味のあることをテーマにする、ですね。娘はBTS一択なので、まず、メンバーの顔と名前を覚え、BTSに関する本を読み漁りました。そうしたら、会話が弾むようになり、そのうち、娘が、「韓国と日本って、昔何かあったの?」なんて聞いてくるようになって。もう、BTS様様です(笑)。恋愛と同じですね。意中の人との距離を縮めるために、相手が興味を持っていること、好きなことを知ることから始めるのが一番だと思います。

水野 確かに。僕、長女と会話する時に、初めは誘導しよう、コントロールしようとしていたんですよ。でも、子どもは一発でこちらの意図を見抜いてしまう。このやり方ではうまくいかないと思って、最近は、娘が話したいトピックだけを広げていくようにしたんです。娘には、気になる男子がいるみたいで、その子の話とか。「今日、掃除当番でいっしょだったんだけど、〇〇くん、ほうきを振り回していたんだよね」と言われたら、「いや、それダメだろ。大丈夫か?」と言いたいところをグッと抑えて、「そうか、今度はいつ、掃除当番いっしょになりそう?」と、返すとか。完全にガールズトークです(笑)。

豪田 好きな子の話は、水野さんの得意分野ですね(笑)。

水野 自分が今まで書いてきたことが、こんなところで役立つとは(笑)。本当は、「いじめられていないか?」など、聞きたいことは他にあるんですけど、そういう話題には切り込まず、娘と”小学校の話ができている”ことをゴールにしています。そういうところから始めないと、親子といえども信頼関係は築けないかなって。

豪田 子どもが小さい頃は、親は、子どもを守るべき存在として上にいますが、ずっとそれでは通用しなくなりますよね。子どもの成長に合わせて、お互いにバージョンアップしていかないと。もちろん、親として言うべきことは言わないといけないから、上からの目線を完全に捨てるのも違うし。

水野 そうですね。僕は、自分の機嫌次第で、子どもたちへの言動を変えないように心掛けています。僕が間違っているなと思ったら、ちゃんと謝るようにしたり。

豪田 それ、すごく大事だと思います。親が子どもに謝れないと、幼児期の上下関係がいつまでも続いてしまう。謝るということは、親が子どものところまで降りてくるということですからね。水野さんのその気持ちは、きっとお子さんたちに伝わっていると思いますよ。

社会課題を解決するのは”対話力”

豪田 僕が、『こどもかいぎ』をつくろうと思ったきっかけのひとつは、娘との対話がうまくできないことだったんですよ。その時、思い浮かんだのが、スウェーデンなど北欧で行われている「サークルタイム」。子ども数人が輪になって、日常で起こったこと、不思議に思ったことなど、さまざまなテーマに沿って話し合う活動です。
スウェーデンは、人口1000万人程度なのに、GDPは右肩上がりで、日本よりずっと高い。それを支えているのが、彼らのコミュニケーションスキルの高さ、対話を大切にする姿勢だと思います。本来はシャイな国民のようですが、それでは世界に通用しないということで、幼少期から対話のトレーニングをしているそうです。「愛とは何か」、「人生とは?」、「刑罰を重くすれば、犯罪は起きないのか」など、いろんなテーマで子どもたちが、自分の考えや思いを言葉にするわけです。

水野 それ、すごいな。

豪田 日本では、対話のトレーニングってまったくしませんよね。それなのに、社会に出ると、会議や打ち合わせなど他者と話し合わなければいけない場面が山のようにある。練習なしにバッターボックスに立ったって、ホームランを打てるわけがないのに。だから「こどもかいぎ」を、日本のいろんなところでやってほしいと思うんです。4,5歳くらいから週1回ペースで行えば、社会人になるまでに300~400回は経験することになる。それだけ練習していれば、ホームランの確率はぐっと上がるはず。

水野 子育ても、ぶっつけ本番だと戸惑う。それと同じですね。

豪田 対話するということは、思考し、自分の気持ちや考えを整理し、言葉を選び、表現すること。それと同時に、他の人の意見を聞く機会にもなります。自分と同じ意見なら仲間意識が育まれるし、違う意見なら、「そういう考えもあるんだ」と、多様性を受け入れる始まりにもなる。今、日本が抱えている社会課題を解決するのは、こうした対話の練習をしてきた子どもたちなんじゃないかと、僕は思っているんです。うまくいけば、2040年頃には、日本もスウェーデンのように、対話主義国になっているかもしれない。そしてそれは、イノベーションにつながると思うんです。
ロボットやAIがますます発展すれば、計算力も記憶力もいらなくなるかもしれないけれど、人間が人間である限り、対話力だけは必要になります。これからを生きる子どもたちには、その対話力を身に着けてほしい。それさえあれば、どうにか生きていけるんじゃないかな。

水野 対話力のすごさを知るためにも、『こどもかいぎ』は必見ですね!

Vol.1「子育てにも産後の妻にも苦戦中!」
Vol.2「子育てにコミットすると仕事は足踏み。その先は?」

こどもかいぎ

ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』
2022/日本
企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:糸井重里
配給:AMGエンタテインメント
2022年7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
とある保育園を舞台に、子どもたちがさまざまなテーマで、輪になって話し合う「こどもかいぎ」を、1年かけて撮影。子どもたちが繰り広げる、奇想天外な発想とまっすぐな言葉は、時に笑わされ、時にハッとさせられ、時にほろりとさせられる。コミュニケーションの原点、対話の大切さに気付かせてくれる、家族で楽しめるドキュメンタリー映画。

豪田トモ
1973年東京都生まれ。中央大学法学部卒業後、会社員を経て、29歳でカナダ・バンクーバーに渡り、4年間、映画制作の修行をする。帰国後はフリーランスの映像クリエイターとして、テレビ向けドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。命と家族をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』、『ずっと、いっしょ』、『ママをやめてもいいですか!?』を発表。2019年、初の小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。1児の父。

水野敬也
1976年愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2003年、『ウケる技術』(新潮社)で作家デビュー。累計400万部を超えるロングセラー、「夢をかなえるゾウ」シリーズのほか、『人生はニャンとかなる!』『スパルタ婚活塾』(いずれも文響社)など、著書多数。DVDの企画・脚本や、映画の脚本も手がける。最新刊、『夢をかなえるゾウ0 ガネーシャと夢を食べるバク』も好評。

 

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連載
イノベーターの子育て論

ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=SHIN ISHIKAWA

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