ビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」。今回は、2022年7月公開の映画『こどもかいぎ』をはじめ、命と家族をテーマにした作品を撮り続ける豪田トモ氏と、『夢をかなえるゾウ』で知られるベストセラー作家、水野敬也氏が対談。子育て真っ最中のお二人、その現実とは!? 【過去の連載記事】
手も口も出さず、寄り添う難しさ
2022年7月22日に公開されたドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』。とある保育園を舞台に、年長クラスの子どもたちが、先生をファシリテーターに、特定のテーマについて話し合う「こどもかいぎ」に参加する様子をメインに1年に渡って撮影。丸3年かけて編集した、豪田氏の最新作だ。この映画のコメントを水野氏に求めたことで、ふたりは初対面を果たし、すっかり意気投合。今回の対談が実現した──。
水野 こんなに感動的で幸せな気持ちになれるドキュメンタリー映画は初めてでした。僕には3人の子どもがいますが、子育てのヒントや、人間を深めるヒントがたくさん詰まっていて。とくに、「ライオンクイズ」のくだりは、妻と大爆笑でした。
豪田 ありがとうございます。実は、編集作業を行っていた最中にコロナ禍に見舞われて、公開に対して、悩みや迷いがあったんですよ。でも、そうおっしゃっていただけると、4年かけてつくった甲斐があった、報われたなという気持ちになります。
水野 三輪車のシーンも印象的でした。三輪車は人気だから全部出払っているんだけど、自分も乗りたいと思っている子がいる。先生は、その子の隣で、「三輪車、貸してほしいよね」と言って、いっしょに待つんですよね。僕、これがなかなかできないんですよ。
豪田 大人は、「順番だからね」とか「交代してあげてね」と、子どもに直接働きかけがちですよね。でも、その保育士さんは、「誰か代わってくれないかな〜」って、まるで宇宙に向かって問いかけるみたいに呟くんです。すると、(三輪車を使っていた)子どもが、ちゃんとそれに応えて、自然と、交互に使うようになるんですよね。僕も、大好きなシーンです!
水野 助けすぎず手も口も出さず、子どもに寄り添うって、難しいですよね。僕は、もともと本が好きだから、子育て本もめちゃめちゃ読むんですよ。でも、いざとなると全然実践できない(笑)。「うわっ、危ない!」なんて、すぐに声が出ちゃうし、つい先回りしてしまって。
豪田 大人になると、経験と知識が増えてくるから、"次"が予測できるんですよね。だから、先回りしちゃう。「子どもは、転んで覚える」なんて言いますけど、転んだのに「おー、いいね!」って余裕な顔でいるなんて、なかなかできませんよ。うちの娘は11歳になったんですけど、このくらいの年齢になると、身体的なことより精神的なことが心配になってくるんですよね。例えば、いじめの芽とか。それは、先回りせず、放っておいていいのか、すごく悩みます。
女性は妊娠によってOSが入れ替わる!?
水野 豪田さんが今、子育ての楽しさを実感するのって、どんな時ですか?
豪田 娘は、見事な右肩下がりで僕から離れていますよ。2、3年前までは、膝の上に乗ってきたり、肩車したりしていたのに、それが、ひとつずつなくなって、唯一残っているのが手をつなぐこと。それも、夜、塾の帰りに、僕が自転車で娘を迎えに行く時限定。僕は電動自転車、娘は普通のチャリで坂を上る時に、僕が娘の手を引く……みたいな形です(苦笑)。でも、そのたびに「ありがとうーー……!」って心の中で言っています。
水野 そっか~。切ないけれど、確実に訪れるんでしょうね、そういう時期。逆に、大変なこと、辛いことは何ですか?
豪田 特に幼児期が多かったんですけど、家族のなかで自分の居場所がないと感じる時かな。母と娘は一緒にいる時間も長いし、話も合う。娘に何か注意したりすると、妻が娘について、いっきに2対1になってしまうことがあるんですよね。定期的に、『パパをやめてもいいですか!?』みたいな疎外感を感じています(笑)。
水野 僕も、家族の空気を乱しちゃうこと、けっこうあるんですよ。妻の地雷を踏んで。とくに、妻がPMS(月経前症候群)の時期。ちょっとイライラしているとか、妻からサインが出ているのに、それに気づけず、間違った対応をとって、家庭を炎上させてしまう……。子どもの前で、親がケンカする姿は見せたくないし、家族という共同体を守るのが僕の役目だと思っているのに(苦笑)。ハウツー本とかで、「相手は変わらない。だから、自分が変わるべきだ」という言葉を何度も目にしてきたのに、同じ失敗を繰り返しちゃっていますね。地雷を踏んで反省する……というのを繰り返しながら、実践で学んでいる状態です。
豪田 僕は、妊娠によって、女性のOSは入れ替わるんじゃないかと思っているんです。だから、それに対応するように、男もバージョンアップしないといけないんだけど、それが難しい。誤動作を起こしまくりです(笑)。
水野 子どもが生まれると、自分たちにどんな変化が起こるのかなんて、誰も教えてくれません。みんな、ぶっつけ本番ですからね。『こどもかいぎ』で、子どものことを教えてくれたように、夫婦の変化についても、豪田さんに教えてほしいくらい(笑)。
豪田 いや、そこはまだまだ修行中です(笑)。
■Vol.2「子育てにコミットすると仕事は足踏み。その先は?」
■Vol.3「子どもとの対話は恋愛をイメージせよ」(7月26日公開)
ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』
2022/日本
企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:糸井重里
配給:AMGエンタテインメント
2022年7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
とある保育園を舞台に、子どもたちがさまざまなテーマで、輪になって話し合う「こどもかいぎ」を、1年かけて撮影。子どもたちが繰り広げる、奇想天外な発想とまっすぐな言葉は、時に笑わされ、時にハッとさせられ、時にほろりとさせられる。コミュニケーションの原点、対話の大切さに気付かせてくれる、家族で楽しめるドキュメンタリー映画。