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2022.07.25

子育てにコミットすると仕事は足踏み。その先は?──映画監督・豪田トモ×作家・水野敬也

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する人物の“子育て論”に迫る連載「イノベーターの子育て論」最新作『こどもかいぎ』が縁で意気投合した映画監督・豪田トモ氏と、作家・水野敬也氏の対談2回目は、仕事と子育てのバランスについての話題から始まった。【過去の連載記事】

豪田トモ&水野敬也

「子どもの言動には、きちんと理由がある。それに耳を傾けられる親になりたいという想いが、映画『こどもかいぎ』をつくるきっかけのひとつ」(豪田トモ氏・写真右)
「家庭とは、自分の未熟さを乗り越え、家族が望む形につくりあげることかもしれません」(水野敬也氏・写真左)

ふとした時に感じる仕事への焦り

水野 『こどもかいぎ』に、「ピーステーブル」というのが出てくるじゃないですか。ケンカとかトラブルの当事者同士がテーブルをはさんで話し合うという。我が家でも、6歳の長女と2歳の次女でやってみたんですよ。そうしたら、長女が、「〇〇ちゃん(次女)、そんなことしたらダメだよ! 〇〇ちゃんだって、人からやられたら嫌でしょ!? 人からされて嫌なことは、しちゃいけないの! わかるよね!?」って、次女に、ものすごく詰め寄るんですよ。おいおい、全然ピースじゃないぞって(苦笑)。でも、泣き声が聞こえたとしても、親は、すぐ行っちゃダメなんですよね。でも、それまで「ケンカしちゃいけない」って言っていたんですけど、この映画を観て、「なんでケンカはダメなんだろう」という、新たな視点が持てました。

ピーステーブル

映画『こどもかいぎ』に登場するピーステーブルでの話し合いの様子。

豪田 水野さん、実践されたんですね、すばらしい! そんな風に映画を観てくださったのは、すごく嬉しいです。僕にとって子育ては一番大事なものだから、いろんな子育て本や教育本などを読むなど、今でも日々勉強です。小さい頃と小学校高学年では、子育てで必要な技術がまるで違いますし、試行錯誤の連続ですから。
子育ては、何の参考書も読まずに合格できるほど甘いものではないんじゃないかな、とも思います。例えば、家を購入する時に、何も調べずにお金を出す人はいないでしょうし、株なんかに投資する時は、できる限り、該当する株や会社のリサーチをしますよね。それと同じく、いやそれ以上に、勉強せずに取り組んだときのリスクが高いのが、子育てです。児童虐待について少しでも勉強しておけば、体罰は「虐待になる」んだなと分かるし、「しつけ以上に誉めることが大切なんだ」と知っていれば、子どもが愛着障がいを背負って生きる確率も低くなります。
勉強しないで取り組んだら、どうなってしまうんだろう? 世の中の人は、もっと子育てについて学んだ方がいいじゃないかな。

水野 同感です! まずは、『こどもかいぎ』を観てほしい。子どものかわいさと大変さ、どちらもリアルに、ドラマチックに表現されていますしね。……圧倒的に、大変さの方が多いけれど(笑)。

豪田 子育てって、時間的には、大変さ8割、かわいさ2割。でも、その2割のレバレッジがすごい(笑)。

水野 確かに、その2割の破壊力はすごいですよね(笑)。まさに80・20の法則で、20%のかわいさが、80%の大変さを凌駕してしまうという……。ただ、子どもをもつか否か迷っている人に対して、「かわいいよ!」と、手放しで言えなくなりました。6歳、2歳、0歳と3人いると、「かわいい!」と言った舌の根の乾かぬ内に、「やっぱ大変」と思ったりして。
朝、保育園に連れて行く前に、子どもの熱を測るんですけど、その時、「お願いだから、37.5度以上にならないでくれ~」って祈っている自分がいるんですよ。なぜなら、保育園に預けられなくなり、仕事に差し障るから。「人として間違っていないか!?」と思いながら、ホッとしたり、パニックになったり。今、けっこうガッツリ子育てしているので、仕事の時間が削られて、「オレ、大丈夫か?」と不安になることもありますしね。

豪田 子育てにコミットすればするほど、仕事は足踏みしちゃいますよね。僕も、『うまれる』の公開直後に娘が生まれて、子育てが生活の中心になったことで、次の作品を発表するまで4年くらいかかりました。

水野 そうだったんですか!? でも、『うまれる』の後に手がけられた『ずっと、いっしょ。』、そして、今回の『こどもかいぎ』と、どんどんパワーアップしていますよね。表現のバリエーションが増えているというか、余裕や深みが増しているというか。ガッツリ子育てしてきたことが、豪田さんの力になってきた気がします。

豪田 ありがとうございます。仕事と子育てって、やっぱりつながっている気がします。僕は父親業をすることで、実は仕事もデキる男になるんじゃないか、とも思っているんです。言葉でコミュニケーションが図れない赤ちゃんのニーズを満たす作業、「察して欲しい」と願う奥さんの気持ちをマーケティングする作業を繰り返すことによって、非認知能力や感性といった能力が確実に上がります。
それによって、例えば、上司が、部下が、同僚が何を自分に求めているのか、どうして欲しいのかを掴みやすくなりますし、お客様が何に困っているのか、どういうサービスを探しているのかを感じ取りやすくなります。
「顧客ニーズ」みたいなものは、データから救い上げることが多くあって、もちろんそれも有効だと思いますが、データはあくまで「過去の結果」。「未来の結果」を導くものではありませんよね。未来がどうなるかは、過去と現状を見た上で、「感じる」ことをしていかないといけないんです。
論理的思考力をアップする努力は皆さんしていますが、この「子育てによって非認知能力をアップ」というのは、まだバレてない(笑)。僕は子育てブルーオーシャンだと思っています。

水野 僕にとって、その言葉は希望! “子育て筋”ばかりついて、”仕事筋”が衰えているのではないかと心配になっていましたが、筋肉の質が変わっただけで、なくなったわけではない。自分は、子どもと一緒に成長し、今まで書けなかったような作品が書けるようになるんだ! そう信じて、目の前の子育てを頑張るしかない(笑)。

子どもの“見どころ”は取りこぼさない

水野 この前、長女の小学校の授業参観があったんですよ。生徒のなかに、ちゃんと座っていられない子が何人かいて。ただ、先生に対する言い返しが抜群に面白いんです。大人になるとわかるんだけど、それって才能ですよね。だけど、「順番に◯◯しましょう」みたいな集団行動で判断すると、その子たちは、ダメな子になってしまう。難しいですね。
もちろん、勉強ができるとか、集団行動ができるといった評価基準も必要。でも、僕は、そうではない才能を持った子たちを吸い上げるのも大切だと思うんです。『こどもかいぎ』に登場する先生たちは、それがすごく上手。さまざまな個性を持った子どもたちを、それぞれ魅力的な存在に引き上げていました。

豪田 おっしゃる通りで、『こどもかいぎ』のファシリテーターはすごく重要。バラエティー番組でいうMCのようなもので、聞き方や話し方、うまい場づくりの仕方など、その人の腕にかかっているところも大きいですね。

水野 (作家の)遠藤周作さんの話ですが、お兄さんたちに比べると勉強ができなかったそうですが、お母さんが、「この子は見どころがある」と、ずっと言い続けてくれたそうで、それが、とても励みになったと。そんな風に、親は子どもの見どころを絶対にとりこぼさないことが大切な気がします。成績とか、顔とか、身体能力みたいにわかりやすい価値観で判断してしまうと、その子の良さに気づきづらい。だから、親は、子どもを見る目、視力を鍛えないといけないんでしょうね。極論、何の見どころを感じなくても、親の愛情というバイアスで解釈の幅を広げて、「すごくいいよ!」って子どもに言い続ける。子どもの頃に消しゴムのカスを削り続けて、結果、クリエイターになった人もいるわけですから。

豪田 これまでご著書を拝読して感じるのは、水野さんは、気づきの天才だということ。子どもに対する“視力”も、きっと鍛えられているはずです。

Vol.1「子育てにも産後の妻にも苦戦中!」
Vol.3「子どもとの対話は恋愛をイメージせよ」

こどもかいぎ

ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』
2022/日本
企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:糸井重里
配給:AMGエンタテインメント
2022年7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
とある保育園を舞台に、子どもたちがさまざまなテーマで、輪になって話し合う「こどもかいぎ」を、1年かけて撮影。子どもたちが繰り広げる、奇想天外な発想とまっすぐな言葉は、時に笑わされ、時にハッとさせられ、時にほろりとさせられる。コミュニケーションの原点、対話の大切さに気付かせてくれる、家族で楽しめるドキュメンタリー映画。

豪田トモ
1973年東京都生まれ。中央大学法学部卒業後、会社員を経て、29歳でカナダ・バンクーバーに渡り、4年間、映画制作の修行をする。帰国後はフリーランスの映像クリエイターとして、テレビ向けドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。命と家族をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』、『ずっと、いっしょ』、『ママをやめてもいいですか!?』を発表。2019年、初の小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。1児の父。

水野敬也
1976年愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2003年、『ウケる技術』(新潮社)で作家デビュー。累計400万部を超えるロングセラー、「夢をかなえるゾウ」シリーズのほか、『人生はニャンとかなる!』『スパルタ婚活塾』(いずれも文響社)など、著書多数。DVDの企画・脚本や、映画の脚本も手がける。最新刊、『夢をかなえるゾウ0 ガネーシャと夢を食べるバク』も好評。

 

過去連載記事

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連載
イノベーターの子育て論

ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=SHIN ISHIKAWA

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