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2022.04.09

真のバイリンガル教育は2倍の学習時間がかかる。──連載「イノベーターの子育て論」Vol.8

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引するイノベータ―たちの“子育て論”に迫る本連載。第7回目は、アメアスポーツジャパンの代表取締役社長、ショーン・ヒリアー氏をフューチャー。20歳の娘と19歳の息子の子育てには、自身の両親をならったものもあれば、日本人の妻と試行錯誤しながら導いたものもある。後編となる今回は、アメリカ流と日本流を融合した子育てについて話を聞いた。【連載 イノベーターの子育て論はこちら

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日米の違いがあるから面白い

ヒリアー氏の子育ては、日本で生まれ育った妻との“共同作業”。アメリカと日本の子育ては、やはり違うのだろうか。

「答えはYESでもあり、NOでもあります。教育システムや学校が子どもたちに求めるものは、けっこう違いますね。日本は、規律性やルールを守ることが重視されますし、勉強に対する期待値も高い気がします。ただ、親が子供に向ける愛情は、アメリカも日本も同じ。父親は娘を、母親は息子を、よりかわいがるという点も、世界共通みたいですしね(笑)」

海外出張も多く、多忙を極めるヒリアー氏だが、運動会や保護者面談など、子どもたちの大切な行事はほとんど参加してきた。それは、妻が、仕事のスケジュールを鑑みながら、うまく調整してくれたおかげだ。

「妻には心から感謝しています。彼女は、常に家族がハッピーでいられるよう心を配り、家族をまとめてくれています。私自身は、妻と協力して子育てをしてきたつもりですが、これほど子育てを楽しめたのは、妻の力が、やはり大きいですね。
もちろん、妻と意見が対立することもありますし、ケンカだってします。でも、お互いにヒートアップすると、それぞれの母国語で早口でまくしたてるせいか、だんだん相手が何を言っているのか理解できなくなってくる。で、結局、『あれ、何が原因で怒っていたんだっけ?』と(笑)。それで、いつのまにかケンカは終わっているんです」

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「たくさん失敗もしたし、自分のことを立派な父親だとは思わない。子育ては、感情のコントロールやコミュニケーションの取り方を学べるいい機会だった」とヒリアー氏。

新たな体験を通して“できる”を増やす

アメリカと日本という異なるバックグラウンドを持つヒリアー氏と妻だが、子育てにおいて重きを置いていることは共通している。ひとつめは、「子どもに自信を持たせること」。

「自分に自信を持つことは、とても難しい。私自身、51歳になった今も、自信を喪失し、弱気になることもあるくらいですから。どうすれば、自信を育むことができるか。それは、新しいことにチャレンジし、さまざまな体験を通して、自分の中の『できる』を増やすしかないと思います。そのために、長女にも長男にも平等に機会を与えてきました。ピアノ、テニス、英語など、同じことをふたりにやらせましたね」

7年間、中国に駐在した経験を持つヒリアー氏だが、うち3年間は、妻と子どもたちも同行した。それは、「新しい土地で、新しい文化や経験を積んでほしい」という想いからだ。

「子どもたちは小学生だったので、友達と離れるのをイヤがりましたし、妻も、言葉も生活習慣も異なる国での生活に不安を抱いただろうと思います。でも、『家族なのだから、いっしょに乗り越えよう!』と説得し、着いてきてもらいました。もっとも私自身は、出張が多くて、常に家族のそばにいられるわけではありません。だから、家族は苦労したと思います。でも、中国での暮らしを通じて、子どもたちは新しい文化や習慣に触れることができましたし、中国語を身に着ける良い機会にもなったようです。彼らは今、大学の第二外国語に中国語を選択していますよ」

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インタビュー当日、「前夜は自分の子育てについて真剣に振り返った」と英語のメモを持参して挑んでくれた。

変化を恐れず、柔軟に適応する力が未来を切り拓く

もうひとつ、夫婦ともに重視していたのが、「話す・読む・書く、すべてにおいて、子どもをバイリンガルにすること」。言葉を理解できれば、その国の文化や習慣を理解しやすくなるからだ。もっとも、父がアメリカ人、母が日本人だからといって、自然にバイリンガルになるわけではない。子どもたちは、日本での生活がメインな上に日本の学校に通っていたため、日本語に関してはさほど問題がなかった。けれど、英語のマスターには、塾に通うなど、特別な教育が必要だったようだ。ヒリアー氏自身も、海外に出張中、日本時間に合わせて早朝に起き、テレビ電話で子どもたちの英語の宿題をみるなど、サポートしてきたという。

「学校では、よく『生まれた時からバイリンガルでラッキーですね』と言われましたが、そうとらえたことは1度もありません。つまり、真のバイリンガルになるには、子どもたちは、他の子の2倍勉強しないといけなかったんです。もちろん大変だったと思いますが、同時に、学ぶことの楽しさも感じてくれたのではないかと思っています。私は、幼い頃から、新しいことを知り、学ぶことが大好きでした。今でも、日々新しいことを学びたいと思っていますし、新しいことに挑戦したいと思っています。たとえば、このインタビューにしてもそう。子育てについて聞かれる機会はこれまでほとんどなかったので、この新しい挑戦を楽しんでしますよ(笑)」

新しいことに積極的に取り組み、学びをやめない。それは、時代を生き抜く術でもある。

「今は変化のスピードがとても早い時代。成功を収めるには、その変化に素早く、柔軟に適応する力が必須です。変化から目をそらすことなく、常にオープンマインドで、新しいものを取り入れ、実践していく。それは、人間だけでなく、企業にも求められる力でもある。アメアスポーツジャパンは、これからも歩みを止めることなく、イノベーションを進めていくつもりです」

Sean Hillier
1970年アメリカ生まれ。ソフトグッズとアウトドア業界でのキャリアを重ね、デッカーズ、ペントランド、アメアスポーツ、VFコーポレーション、クラークスなどで20年以上に渡ってキャリアを築く。クラークス在籍時は日本と韓国のGM兼代表取締役を務めた。2021年8月より現職。

※前編はこちら

【連載 イノベーターの子育て論はこちら

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連載
イノベーターの子育て論

ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=田中駿伍

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