20枚目のソロアルバム『Still Dreamin’』をリリースした布袋寅泰。キャリアと年齢を重ねても一貫しているロックスピリッツの証しのひとつには、スーツで演奏して歌うスタイルがある──。【シン・男の流儀】
今も夢を追い続けているか。ギターの音に込めた新作
トラディショナルなネイビーのスーツでギタリスト、布袋寅泰はやってきた。身長は187センチ。その長身のせいか、にじみでる音楽家としての個性のせいか、そのスーツ姿は華やかに見える。
2012年、布袋は家もクルマも手放してロンドンへ移住し、イギリスを拠点に音楽活動を展開している。しかしコロナ禍で国を越えた移動が難しくなり、この半年は久しぶりに日本に長期滞在。東京パラリンピック開会式に登場し、自らが書き下ろした「TSUBASA」と「HIKARI」を演奏。ニューアルバム『Still Dreamin’』をレコーディングし、60歳の誕生日である2022年2月1日にリリースした。
「コロナ禍や気候の変動など、地球は難しい時代を迎えています。でも、だからこそハッピーに、前向きな、朝から聴けるロックアルバムをつくりました」
今回、布袋はほとんどの曲を故郷の群馬県・高崎市のスタジオでレコーディングした。
「ずっと僕はリアルな今を音にしてきました。ふり返らずにね。でも、今回は敢えて僕の出発点である高崎のスタジオを選びました。BOØWY時代のとても大切な曲に「Dreamin’」があります。あの歌詞に僕が委ねたのは、社会に染まらず、歯車にならず、はみだしても自分らしく生きることでした。高崎から東京へ出て、池袋では、トイレも風呂もない、週末が明けた朝、扉を開けると目の前に吐瀉(としゃ)物があるようなアパートの部屋で、ギターを弾き続けていました。いつか成功することを夢見てね」
その姿はデビュー40周年を記念してつくられたドキュメント映画『Still Dreamin’―布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム―』にも描かれている。
「栄光ばかりではなく、砂を噛むような思いも体験してきました。生身の人間だから、立ち止まって悩んでいることもあります。悩んで模索している時もあります。日本とは違い、ロンドンでは現地のプロモーターとの交渉やライヴの動員にも苦労していますよ。それでも、ロックスターである限り、ステージに立ったら、うつむくわけにはいきません。光っていなくてはいけない。カッコよくあり続けたいと思っています」
今も夢を追い、戦い続けているという自負はある。
「30代、40代、50代と、男として旅をしてきて〝Still〞、つまり、オレは今もまだ夢を見ているか? これからも夢を見続けられるか? 大人になっても夢は枯れていないぜ、というメッセージを音に込めました」
そんな布袋のキャリアに欠かせないアイテムとして、スーツがある。CDジャケットやステージだけでなく、レコーディングにもスーツで臨んでいる。
「びしっとスーツを着てスタジオに入ってギターを持つと、1音1音が特別な響きになります。気持ちが入るからです。僕の世代が10代の頃は、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルに象徴されるように、長髪でデニムをはいて演奏するロックが全盛でした。でも、自分が憧れたのはロキシー・ミュージックやデヴィッド・ボウイ。ファッショナブルでエレガントなロックミュージシャンたちです。タキシードを着て、腰をくねらせて歌っていたロキシーのブライアン・フェリーはたまらなく格好よかったですね。当時の日本にはスーツ姿で演奏するギタリストはいませんでしたけど、僕はバンドを始めた頃から、親父の背広を着てギターを弾いていました」
そんな生き方やスタイルも含めてロックだった。
「人と違うことをやるのもロックの精神です。でも、バンドを始めたばかりの頃はお金がなくてね。原宿にあった古着屋、赤富士で一発奮起してスーツを買ったことを覚えています」
英国ブランドでスーツを仕立てる
布袋が初めてフルオーダーしたスーツはラルフローレン。40歳を迎えた時だった。
「本物の大人の証しとして、スーツを勉強しようと自分だけのスーツをつくりました。ラルフローレンにしたのは『グレート・ギャツビー』の世界観への憧れもあったのかな」
1974年、アメリカの作家、フランシス・スコット・フィッツジェラルドの名作、『グレート・ギャツビー』が映画化された際、主演のロバート・レッドフォードの衣装を担当したのが30代のラルフ・ローレンだった。「ニューヨークのブランドだけど、ヨーロピアンの柔らかさが感じられて、セクシーなんですよ。あれからしばらくはラルフローレンを着続けました」
今はもっぱらブリティッシュ。この日の撮影で着ていたターンブル&アッサーは、1885年創業でロイヤルワラント(英国王室御用達の証し)を授かる老舗ブランドだ。
「とにかく上品で柔らかい、エレガントなスーツです。1ミリ単位で身体にフィットさせてくれています」
ロンドンのジャーミン・ストリートにある本店には布袋の写真も飾られているという。
「お店で職業を聞かれ、ジャパニーズ・ロックスターだと答えた。僕が手がけた映画『キル・ビル』のメインテーマ「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」を聴かせたら、写真を撮らせてほしい、と。ちょっと自慢です」
ライヴではタケオキクチのスーツを着る機会が多い。
「特別につくってもらっています。腕丈がギターを弾きやすいように調節されていたり、右手が上がりやすいように腕の付け根のカットが深くなっていたり。10代の頃から憧れていたデザイナー、菊池武夫さんに仕立てていただける日が来るとは――。感激しています」
そして今、ダンヒルにスーツをオーダーしている。
「60歳のメモリアルスーツを3着、ダンヒルで仕立てています。ダークブラウン、ダークグレー、そしてブルーのストライプが入ったライトブラック。採寸から半年くらいかかります」
新しいスーツを着た布袋はスタジオでどんな音を鳴らすのだろう。期待が膨らむ。
TOMOYASU HOTEI
1981年にバンド、BOØWYでデビュー。’88年に『GUITARHYTHM』でソロデビュー。「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」「さらば青春の光」などヒット曲多数。デヴィッド・ボウイやローリング・ストーンズなどと共演。2021年東京パラリンピック開会式でも演奏。5月より全国ツアーが始まる。詳しくはこちら。