私にとって仕事は助けてくれるもの
志穂美悦子のシスター姿が、作品を見ていない人にも強烈なインパクトを与えた1985年公開の映画『二代目はクリスチャン』。つかこうへいの小説を劇団扉座が舞台化する『扉座版 二代目はクリスチャン -ALL YOU NEED IS PASSION-』で、修道女から極妻になった主人公の今日子役に挑むのは石田ひかりだ。彼女にとっての初舞台は、つかこうへい作・演出の「飛龍伝’94」だった。
「牧瀬里穂さんが主演した『飛龍伝’92』を2回観て、『どうしてもこの役をやりたい!』とつかさんに直訴して、実現したのが『飛龍伝’94』なんです。若かった私を、何の迷いも恐れもない状態で板の上に立たせてくれたつかさんは恩人。27年ぶりにつかさんが書いたセリフを言えることが楽しみです」
この取材時に、ジョナサン・マンビィの演出による『ウェンディ&ピーターパン』に出演中の石田にとって、舞台作品への出演が続く。
「自分の芝居がまだまだという自覚があるので、なんとかしたいという思いがあります。でも2年に1作品ペースでは、どうしてもまた振りだしに戻ってしまうので、色の異なる舞台作品に立て続けに出演できることが、本当にありがたいです」
彼女ほどの知名度と実績がある人が、敢えて舞台という「修業」の道を選ぶーー。
「壁を越えたいんです。お稽古や本番で、役と役がつながり、役として役に反応するあの瞬間を、もっともっと味わいたい。そして、芸達者な方々に相手にされるようなお芝居ができるようになりたい。常にそんな思いを持ってやっています」
アイドルとしてデビュー後、若手女優として大ブレイクしたが、辛苦も経験したという。
「私はアイドルとしては、3年間まったく芽が出なかったんです。15歳から18歳の非常に多感な時期に、“惨め”という感情を味わいました。自分の娘たちには、“惨め”という感情はできれば経験しないでほしいと思うくらい、本当につらかった。それでもものすごく一生懸命にやってきました。それは誓えます。あと、人のせいにもしてこなかったとも思います。その時々で『あの人のせいだ(笑)』と思ったことはあるかもしれませんが、最終的には自分で責任を取ってきたつもりです。その結果が今日の自分なのかな、と思います」
現在は俳優、母、妻として、仕事と私生活が互いによい影響を与えながら、着々とキャリアを築いているように見える。
「日常生活はなんの計画性もなく、目の前のことを無我夢中でやり続けているだけです。まったく生活感のない人にものすごく憧れますが、そうはなれませんでした(笑)。頭のなかは、冷蔵庫の中身や明日のお弁当のメニューなどが入り混じり、毎日カオス状態です(笑)」
彼女のこの人間味はお芝居だけでなく、インスタグラムの文章からもにじみでる。そこには共演者や出演作品へのストレートな愛情があり、読んでいるこちらの気分も晴れやかに。
「今は舞台で共演中の(黒木)華ちゃん命です! 休演日は華ちゃんに会えないので損した気分(笑)。私は毎日を楽しく過ごしたいから、楽しみを見つける性格なんだと思います。もちろんつらいことや嫌なことはありますし、気の合わない人も当然います。でも、大好きな仕事をすることで、私はすごく助けられています。仕事は家族や友人と同じように、私にとって楽しみであり、生きる希望でもあり、人生そのものです」
『扉座版 二代目はクリスチャン -ALL YOU NEED IS PASSION-』
原作:つかこうへい
脚本・演出:横内謙介
出演:石田ひかり、岡森 諦、有馬自由、犬飼淳治、鈴木利典、砂田桃子ほか
つかこうへいの小説と井筒和幸監督の映画で知られる『二代目はクリスチャン』の“その後”を、令和X年を舞台に描く。修道女から極道の妻となった今日子(石田)が出所する。今日子は教会に戻ることを拒否し、二代目継承を宣言する。