2012年にハワイ・ラナイ島の98%を購入し、サステナブルな島開発計画を進めてきたのがオラクルの創業者、ラリー・エリソン氏だ。巨額の資金を惜しげもなく投じ、自分の理想をカタチにすべく邁進する。そんな世界的富豪の姿から見えてくる、島を所有することの醍醐味とは?
理想を掲げ人々と共有するための島
ラナイ島という島を知っているだろうか? ファストフード店も信号もなく、約3000人の島民が静かに暮らし、ほぼ手つかずの雄大な自然が今なお残る、“ハワイ最後の楽園”と称される島だ。一大リゾート地のマウイ島から船で1時間足らず、ホノルルからも飛行機で30分という距離にありながら、いったいなぜこの島は開発の手から逃れることができたのだろうか?
その理由は、1922年にアメリカの企業・Doleが島を購入して以降、’80 年代までの長きにわたり島全体が世界最大級のパイナップル農園となっていたため。その間、島民以外の立ち入りは制限されていたので、他のハワイの島々のように大規模なリゾートが建設されることはなかった。
ところが、パイナップル産業はやがて衰退していき、農場は閉鎖。そして2012年、3億ドルともいわれる金額でラナイ島の98%を購入したのが、世界的なIT企業であるオラクルの創業者、ラリー・エリソン氏だった(残る2%は国有地)。
オラクルを世界有数の企業に成長させ大富豪となったほどの人物が島を購入したと聞けば、「誰にも邪魔されない空間に、自分とその仲間だけの別荘のようなものを造る」と想像するかもしれない。ところが、エリソン氏は違っていた。ラナイ島の購入目的を「土地と島の天然資源を保護管理しつつ、サステナブルな島を目指す」と表明。ハワイ最後の楽園を残していくため、自分にできることをすべてやるという覚悟を示したことで、島民にも受け入れられた。
掲げた目標のために取り組んでいるのが、島及び周辺の海や環境を維持するための、漁業や生態系の維持と管理。天然資源によるエコシステムの構築やハイドロポニックの農園「Sensei Farm」を造ることで、それまで農業が不可能だといわれていた地域での野菜の栽培を可能にした。他にも、最新映画館の建設を手がけるなど、さまざまな方法でラナイ島をサステナブルな島にしようと精力的に活動している。
また、島には以前から海側と山側それぞれにフォーシーズンズホテルがあり、エリソン氏は巨額の資金を投じてそのどちらも大改造。山側のホテルで始めたのが、人々がより長く、より明るい生活を送ることを目指して団結することを目標とした「SENSEI RETREAT」(SENSEI=日本語の先生)というプログラムだ。ゲストは“センセイガイド”によるカウンセリングやマッサージ、スパ、血液チェック、エクササイズ、ヨガ、瞑想、滞在中の体調をデータで管理等々、ウェルネスをテーマにしたラグジュアリーなリトリートプログラムを受けることができる。当然、料金は決して安くない。しかし、良質なプログラムを高額な料金で提供するからこそ、外から島にお金が流れ、そのお金が島の環境維持のための新たな施策を生みだしていく。そんな島だけでなくプログラムそのものをも持続可能にさせる好循環を実現させているのだ。
エリソン氏の取り組みは、環境維持とリゾートという一見すると相反しているように思えることでも、プログラムしだいでは(加えて、高額な料金に見合う内容を創造できれば)共存できるという、ある意味、これからの時代のリゾートのあり方を示しているようでもある。
世界でたったひとつの楽園をつくりあげる
“島を所有する”ということは人の気持ちを高揚させ、その想像力を搔き立てる。周りを海に囲まれた自分だけの王国を築いてやりたい放題(悪巧み的な?)するのも可能だし、同じ価値観を持つ仲間たちと空間や時間、体験を共有できるのもいい。富を得た人が島の購入にたどりつく理由も、案外そんな単純なものなのかもしれない。
人生をよりエキサイティングで刺激的なものにしたければ、いっそのこと、“自分王国計画”を立案し、どこかの島を購入してみるのはどうだろうか。ただし、「よそ者を排除した身内だけの遊び場」という前時代的な楽しみ方のスタイル=裸の王様はナンセンス。エリソン氏のように、自分の理想とする空間と環境を整え多くの人々に提供し喜びを分かちあう、そんな王様こそが目指すべき理想の姿といえるだろう。
Lawrence Joseph Ellison
ソフトウェア企業・オラクルの創業者。アメリカの経済誌『Forbes』が2021年4月に発表した世界長者番付では7位にランクイン。その資産額は930億ドルにおよぶ。また、親日家でかなりの日本ツウとしても知られている。
Lanai Island
ハワイ諸島のほぼ中心部に位置する、ハワイ諸島で6番目(東京都の約6分の1)の大きさの島。ハワイの隠れ家的リゾート地であり、赤土の大地に巨石が無造作に転がっているケアヒアカヴェロや、鮮やかなブルーの海が広がるフロポエ湾など、観光地ハワイにあって奇跡的に手つかずの自然や風景が多く残されている。かつては土地の5分の1がパイナップル畑であったことから、「パイナップル・アイランド」とも呼ばれていた。
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