経営危機のチームを立て直す!
人が事象を認識し、行動にいたるまでの思考の働き=意識構造に着目した組織マネジメント理論「識学」。この組織論でコンサルタントする同名の会社は、設立後わずか4年目で東証マザーズに上場。「識学」は、現在約2000社が導入するなど、高い実績を誇る。それをスポーツ界で活用しているのが、識学の西田創氏である。
「『識学』を知ったのは、2018年、母校の立教大学ラグビー部でヘッドコーチを務めていた時でした。トップチームで10年やってきた自分の経験を伝えられれば、きっと結果が出ると思っていたのに、なかなか上手くいかなくて。マネジメントに問題があるのかもしれないと模索し、出合ったのが『強い組織をつくる』と話題になっていた『識学』でした」
話を聞きに行った西田氏は、「これこそ自分が求めていたものだ」と確信。当時の勤務先を辞めて『識学』の講師に転向、ヘッドコーチとの二足の草鞋(わらじ)を履く。その翌シーズン、立教大学ラグビー部は、対抗戦BグループからAグループへの昇格を果たす。
「『識学』で大切なのが、分解するという作業。選手に対して曖昧な話はせず、ひとりひとりにどんな役割が求められるのか、細分化し、具体的に提示します。起用の基準も明確なので、選ばれなかった選手は、『自分が、そのレベルに達していないからだ』と納得し、他人や環境のせいにすることはありません。むしろ、与えられた目標をクリアするにはどうすればいいか、自分で考え、行動するようになるんです。その流れができれば、あとは自然と強いチームに成長します」
ルール・位置・利益・結果・成長に絞ったマネジメント
西田氏は、’20年5月からバスケットボールBリーグ2部所属、福島ファイヤーボンズの運営に携わっている。ここ数年成績が低迷し、財政難に見舞われているクラブを再建すべく、白羽の矢が立ったのだ。とはいえ、西田氏はバスケットボールに関しては素人。そのため、競技面は、監督やコーチ陣に「識学」の理論を理解してもらったうえで任せ、主に運営を担当しているという。
「競技も運営も、『識学』が唱える『ルール・位置・利益・結果・成長』という5つのポイントに絞ってマネジメントしています。『ルール』であれば、チームの移動時の服装や挨拶、事務所の清掃など、誰もが当たり前に守れるようなものを定めると同時に、個々の役割を明確にし、役割=責任=権限だという共通認識を持たせる。組織での立場を意味する『位置』については、部下から上司に報告をあげ、申請し、権限を主張するなど、下から上へという流れを基本にします。そうすれば、上司の作業は“承認”だけになり、部下とのコミュニケーションに腐心せずとも、効率よくマネジメントできます」
同様に、「この組織にいることで成長できる」「正当な評価が得られる」など、“利益”の有無で人を動かし、「アイツは人一倍頑張っている」といった主観が入りこみやすい“プロセス”ではなく、誰もが公平に判断できる“結果”だけに着目するという。
「チームづくりは人づくりです。人が育たなければチーム運営の意味がないとすら思っているんです。なので、私は社員や選手に安易に迎合せず、彼らの『成長』につながると判断すれば厳しく接するようにしています。また、希望だけでなく恐怖(ストレス)を意識させることも必要です。人は希望に向かって進んでいきますが、背面に恐怖がないと加速していきませんし、手を抜くこともできますから。特にスポーツ選手の場合、希望=勝利と、恐怖=敗北のどちらに偏りすぎてもパフォーマンスが下がってしまう。そのバランスをとることが大切だと思います」
「識学」のマネジメント方法は、このように体系だっているため、どんな組織にも応用が可能。上司のリーダーシップの有無や部下との相性といった“不明瞭な要素”に左右されることもない。効率的に効果が出せる反面、ドライなようにも思えるが、西田氏からは、リーダーとしてのポジティブな熱量が伝わってくる。
「はい、すごく楽しいです(笑)。スタッフや選手の士気も高まっていて、つくづくいいチームだなと思います」
昨年12月には、電球交換や買い物代行といったシニア層の生活全般をサポートするソーシャルフランチャイズ事業、「まごころサポート」にクラブが加盟するなど、新たな試みもスタート。
「私もお手伝いに行きましたが、地域のニーズや問題が肌でわかり、非常に有意義でした。福島ファイヤーボンズは地域密着型のクラブ。この活動は、収益源のひとつとしてだけでなく、地域貢献やファン開拓にもつなげていきたいと考えています」
地方創生のロールモデルを目指す“チーム西田”の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
「識学」で福島ファイヤーボンズを再建!
「私が関わる直前は、スポンサーが前年の138社から20社以上も減り、ユニフォーム前面を飾るメインスポンサーも失っている状態でした」
それを9ヵ月で189社に増やせた裏にあったのは「識学」のメソッド。過去の実績を元に各営業マンの契約成功率を出し、目標額に照らし合わせて1日の訪問件数を割りだすなど“分解”。やるべきことが明確になったことに加え、各営業マンが役割=責任=権限という認識を持ったのが功を奏した。
自治体に働きかけ、ふるさと納税を活用したスポンサー集めも行った。「クラブのSNSも、目標フォロワー数に具体的な数字を掲げ、反響を分析し、反映させました」。それが集客につながり、前年12位から昨年末時点で6位にまで上昇した。
Policy of NISHIDA
01. 目的意識を明確に持つ
02. チームづくりは人づくりである
03. 希望と恐怖(ストレス)のバランスをとる