「すべてを背負って会社の先頭を走り続ける」
週4回ジムで鍛えているという肉体に細身のスーツがよく似合っている。丁寧に磨きこまれた靴もこだわりを感じさせる。だからこそ、背中のリュックに違和感を覚える。石灰石を原材料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」で注目されるTBM代表の山﨑敦義氏は、いつどんな時もリュックを背負って出かける。
「リュックを背負うのが、僕の仕事のスイッチみたいになっています。起業した頃は、手ぶらで大きなクルマのフカフカの席にふんぞり返る社長を夢見たこともありましたけど(笑)、今はそんな思いは1ミリもない。たくさんの荷物を持ち運べて、常に両手が空いていて、走ろうと思えばいつでも走れる。ブリーフケースを使っていたこともありましたが、今となってはリュック以外は考えられないですね」
中学卒業後、大工を目指して修業し、20歳で中古自動車販売の会社を起業。10年間続けて、それなりの結果は出していたが、心のどこかに物足りなさを感じていたという。
「その頃にヨーロッパを2週間くらい旅行したんです。ロンドン、ローマ、バルセロナ、パリ……驚いたのは、何百年も前の建物や街並みが残っていること。大工をやっていたから、家や建物は新しいほうがカッコいいと思いこんでいた。でもヨーロッパの街並みの歴史とその重みを感じて、持続可能な社会を実現したいと思うようになりました」
期待を責任として背負っている
そんな時に台湾で出合ったのが、石灰石を原料としたストーンペーパーだった。当初は台湾企業と協業の道を模索したが、品質が安定しなかったことから断念。国内で独自開発することを決断した。
「2014年くらいは、資金調達で走り回っていましたね。毎日が“のるかそるか”の勝負。リュックに資料を詰めて、世界中を回りました。時には石灰石そのものを持ち歩くことも。リュックを使うようになったのもそのころでした」
リュックを使うようになった山﨑氏は、“別のものも背負っている”と感じるようになったという。
「それまでは自分のやりたいことをやりたいようにやってきた。でも自分が大きなチャレンジをしていると、損得抜きに応援してくれる方々がいてくれた。本当に感謝していますし、彼らの期待を責任として背負っているという思いです。素材の開発が進まず、家賃が払えないような時期もありました。『ここで終わりかな』と思った時に、踏ん張ることができたのは、力になってくれた方々への思いがあったからです」
現在使っているY-3のリュックは3代目。銀座のショップで「お洒落だし、荷物がたくさん入りそう」という理由で購入したという。
「大きな会社とかにリュックを背負っていくと、たまに“エッ”という顔をされることもあります(笑)。僕は会社の一番先頭を走っている営業パーソンのつもりなんです。僕自身も会社としてもずっと挑戦し続けたい。人生長いようで短いじゃないですか。気がつけばおじいちゃんですよ。だからこそハングリーな気持ちで世界にチャレンジしたいし、世界の役に立つ仕事をしたいと思っています」
現在は、国内6000以上の企業や団体でLIMEX素材が導入され、総額135億円以上の資金調達にも成功。急成長を遂げた。しかし山﨑氏は「あくまでも通過点」という。
「目指すはサステナビリティ革命。そのために、もっとハングリーにストイックに会社を引っ張っていきたいと思います」
YAMASAKI’S TURNING POINT
20歳 大工見習を経て、中古車販売の会社を立ち上げる。
35歳 台湾からストーンペーパーの輸入販売事業を開始する。
38歳 TBMを設立し、新素材LIMEXを開発する。
41歳 石灰石を原料に開発したLIMEXで特許権を取得する。
46歳 EOY 2019 Japan Exceptional Growth部門で、大賞を受賞。