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2020.12.25

JRA競走馬「ゲーテ」号が誕生! 育成に励む社台ファームは馬400頭が暮らす「学校」だった

競走馬の「馬名」は、誰が、どのようにして決めているのか? ディープインパクトは”強い衝撃”と直訳できるが、まさに、その活躍は世界中に衝撃を与え、後の競馬界に深く影響を及ぼしている。
2020年秋、筆者・サントス小林とGOETHE編集部は、凱旋門賞の壮行会(オーナー松島正昭氏と武豊騎手)の席に偶然同席した。その際に、文豪ゲーテの人生訓と、その名を冠した雑誌のコンセプトに共感した松島オーナーの意向で、期待のディープインパクト産駒(牡馬)の馬名がゲーテ号に決定。連載第2回からは、来夏デビューに向けて北海道にある名門牧場「社台ファーム」でトレーニングを積むゲーテ号の様子を伝える。第1回「雑誌・GOETHE[ゲーテ]に閃いた。父はあのディープインパクト」

社台ファームですくすくと育つゲーテ号

社台ファームを訪ねて

2020年11月中旬。筆者と編集部はゲーテ号(プラスヴァンドーム2019)に会いに北海道千歳市にある社台ファームを訪ねた。出迎えてくれたのは、松島正昭氏が代表を務める馬主「キーファーズ」の育成担当、長浜卓也氏だった。事前に、ゲーテ号を所有する松島オーナーサイドから「雑誌『GOETHE』が取材に行くから」と連絡して頂いたおかげで、コロナ禍ながら、通常でも部外者の立ち入りが厳しく制限されている育成牧場に入り込むことに成功した。

北海道千歳市にある「社台ファーム」の玄関

玄関には社台ファームを象徴する勝負服の看板が掲げられている

長浜氏:「ようこそ! 社台ファームへ」
筆者:「スミマセン……。お邪魔しちゃって」
長浜氏:「松島オーナーの頼みですから(笑)。それにアブミの連載(本サイトで連載中)も楽しく読んでますしね。ゲーテ君は、このあと午前9時30分の第三班の坂路に入っていますから、あとで見にいきましょう!」

そもそも、観光牧場ではなく「JRAの歴史」とも言える社台グループの牧場に、それも、デビュー前年のこの大切な時期に取材許可が出ることも稀である。牧場内には、来年以降にデビューを控える競走馬予備軍たちが何百頭も暮らしており、いずれの馬も所有者は全国それぞれのオーナー(馬主)。何千万円、何億円の仔馬を預かる牧場として、「何か」があっては取り返しがつかない。例えるなら高級スポーツカーが何百台、世界に1台しかない超高級車が何十台も保管されているのと同じだから……。

敷地内を車で移動!

長浜氏:「僕のクルマの後ろについて来て下さい」
取材班:「?……。クルマで?」

敷地内は広大。後で調べると東京ドーム約62個分の広さもあり、歩いて……は無理なのである。移動すること、数分。競馬場らしき雰囲気のトレーニング場が見えてきた。

東京ドーム約62個分の広さに、馬が約400頭が暮らす。


長浜氏:「今、前の(第二班)馬達が坂路(調教)を終わって戻ってきますから、ちょっと見てみましょう!」

20馬ほどの馬が隊列をなして坂の頂上から常歩(なみあし)で戻ってくる。

長浜氏:「〇〇(騎乗スタッフの名前)、どうだ? 〇〇は? 〇〇は?」

矢継ぎ早にスタッフに声をかけ、手元の資料と照らし合わせながら、全馬に声をかけていた。

筆者:「長浜さん、全部の馬(の名前が)、わかるんですか?」
長浜氏:「(笑)もちろん! オーナーも値段も全部把握してますよ」

筆者には全くわからない。毛色の違いは多少わかるのだが、目の前の馬が1歳か2歳か3歳かも、正直わからなかった。

長浜氏:「〇〇、××××千万(ロールスロイスにプラスα)! オマエ、いい馬乗ってんなぁ(笑)」

金額が飛び交う会話に最初は驚いたが「なるほど」とも思えた。騎乗スタッフは、趣味で乗馬をしているのではなく、オーナーから預かっている大切な愛馬。その値段を知ったうえで乗り、強くするため、そして、その価値を高めるために……世話をしているのだと。長浜氏とのやりとりは、一見すると、冗談めいたパフォーマンスに思えたが、実はそうではなかった。「責任と役割」なる、それぞれのプロ意識がそこに垣間見えた。

ここは競馬場?

筆者:「ゲーテ号は、今、どこにいるんですか?」
長浜氏:「見に行きましょうか。今、(第二班を)乗り終えたスタッフが、次の準備をしてますから」

敷地内を、ゴルフ場の乗用カートで移動する。

筆者:「この左に見えるコースって、1周何メートルなんですか?」
長浜氏:「周回コースは1,000mです」
筆者:「1,000m? ですか。1km……」

勝手な想像で、陸上競技場のトラック(一周400m)よりも少し大きいぐらいかな? と思っていた。敷地面積が広すぎて、もはや大きさの感覚がわからなかった。倍以上もあるのか……。

長浜:「ゲーテ君がこれから走る坂路は、直線で1,000mですから」

1,000mかぁ。いや、直線で? 麻痺してしまっている。冷静に考えてみよう……。真っ直ぐな道が1km続く。それが私有地にあることが、とにかく驚きだ。

長浜氏:「あとで、小林さん(筆者)、走ってみてはどうですか(笑)? 馬の気持ちが分かりますからぁ」
筆者:「いやぁ(笑)。ちょっと……それは」

1周1kmの周回コース

続いて案内されたのは、いくつもの大きな建屋が並んでいるエリアだった。

筆者:「長浜さん、今、何馬ぐらいの馬がいるんですか?」
長浜氏:「400頭ぐらいですね。もう2歳のほとんどが出て行ったので、ここ(厩舎)にいるのは、来年にデビューする2019年生まれがメインです。もちろん、競走馬の生産もしていますので今年生まれた(母馬〇〇の2020)もいますよ」
筆者:「400頭かぁ。凄いですね(笑)」

そのスケールに笑うしかなかった。さながら「学校」のようだなと思った。0歳、1歳、2歳、そして、そのお母さん。教える担任の先生や校長先生、管理する人が一緒に寝泊まりして暮らす「街」でもある。

ゲーテ号は武幸四郎厩舎だった!

馬達が暮らす厩舎(人間でいう家)を前に、いよいよゲーテ号との対面である。馬房(人間でいう家のなかの部屋)に仕切られ、1つ1つに馬名や馬主、調教師などが記されている。厩舎のなかを歩くと、そこかしこに「調教師〇〇、馬主〇〇」とあり、なかにはまだ公の情報になっていないゲーテ号の同級生(母馬〇〇の2019)が一緒に暮らしており、興奮した。競馬界に疎い筆者でも知っている名伯楽の先生たちの名前が、そこらじゅうのプレートに書いてあるのだ。

筆者:「長浜さん、ゲーテ号の調教師って武幸四郎さんなんですね(笑)」
長浜氏:「ハイ」
筆者:「知らなかった(笑)。武幸四郎厩舎って、最近決まったんですか?」
長浜氏:「いや……。松島オーナーから早い段階で”幸四郎さんの厩舎で”と言われてました」
筆者:「もう、早く言ってよ~、幸ちゃん(笑)」

9月下旬に、松島オーナーと武豊氏と会食の席で決まったプラスヴァンドーム2019の馬名だが、その時、すでに入厩先は決まっていたのだ。もちろん、私はその後、旧知の武幸四郎調教師に電話して「実はさ。先週、社台ファームに行ってきたのよ」と話した。

武調教師:「えっ? 何でこの時期に? 小林さんが?」
筆者:「松島さんの馬でご縁があって……名前をね」
武調教師:「あっ! ディープの仔かぁ! 何か“面白いキッカケで”って(松島)オーナーが言ってたけど、あの馬名はそうだったんですか! 来週行きますよ! 社台ファームに! 預かる馬の状態を見に」
筆者:「ホントに? 頼むよ~ウチの馬(笑)」

ゲーテ号が暮らす馬房の入り口には血筋、馬主、調教師などが記されたプレートが掲げられている。

トレーニングを終え、馬房に戻るゲーテ号

縁はあるものだ、つくづくそう思った。

武豊騎手と知り合って約20年。かつて、筆者がゴルフ取材と休暇で北海道を訪れていた際に、夏競馬で函館に滞在していた弟の幸四郎騎手(当時)が共通の知人の牧場がある日高にまで来てくれて、急遽の納涼BBQを楽しんだこともあった。

ゲーテ号の松島オーナーもしかり。武豊騎手を介して出会い、今回のゲーテ号の命名(詳細は第1回より)の運びとなった。ディープインパクトと武豊の「縁」、松島オーナーと武兄弟との「縁」、筆者とGOETHE編集部との「縁」。ゲーテ号が今から愛おしくて堪らない。

吉田照哉社長が同席??

長浜氏:「馬具も装着したので、ゲーテ君(馬房から)出てきますよ、そのまま坂路に入るので、我々も移動しましょう!」
筆者:「ハイ」
長浜氏:「あの先に見える小屋の中から、タイムとか調教の様子が間近に見えるので……。写真もそこで。あと……。今日、社長もいると思いますので」
筆者:「えっ? 吉田照哉さん? 社台グループの?(心の声で、聞いてないよ~ 汗)」

小声で担当編集者に「どーする? 照哉さんがいるって……。たまたまかな?」とつぶやいた。担当者は「話とか聞いちゃってもいいんですかね? 写真撮りたいなぁ……」と一言。

筆者:「いや……。ちょっと様子を見ようよ(笑)」

<第3回>「コロナ禍に吉田照哉氏の思い」に続く

Santos Kobayashi
1972年生まれ。アスリートメディアクリエイション代表。大学卒業後、ゴルフ雑誌『ALBA』の編集記者になり『GOLF TODAY』を経て独立。その後、スポーツジャーナリストとして活動し、ゴルフ系週刊誌、月刊誌、スポーツ新聞などに連載・書籍の執筆活動をしながら、映像メディアは、TV朝日の全米OP、全英OPなど海外中継メインに携わる。現在は、スポーツ案件のスタートアッププロデューサー・プランナーをメイン活動に、PXG(JMC Golf)の日本地区の立ち上げ、MUQUゴルフのブランディングプランナーを歴任。

TEXT=サントス小林

PHOTOGRAPH=池田直俊

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