田園調布の邸宅を手放し、夫婦ふたりの終(つい)の住処(すみか)探し。だが、満足のいく家は見当たらなかった。Francfranc代表取締役社長執行役員 髙島郁夫氏が求める、生活を楽しむ家とはー。
窓の外を眺めながら仕事をしていると気持ちが鼓舞する。そんな家が理想。
インテリアや雑貨を販売するフランフランを率いる代表取締役の髙島郁夫氏が、隈研吾設計の田園調布の大邸宅を手放したのは、今年の夏だった。
「売りに出したのは昨年のことです。あの家は僕が40代後半に建てたもの。当時の自分には必要なものだったし、7人家族で住むにはとても快適な家でした。でもあれから10年以上が経ち、妻とふたりで今後暮らしていくには、200坪の家はどうにも使い勝手が悪い。部屋と部屋の距離もあるし、使わない部屋もあり、維持費もそれなりにかかる。ライフステージの変化とともに街自体にも魅力を感じなくなって……」
2020年初めに購入の打診があり、夏前に契約が完了した。
「ここ数年、終の住処をどうしようかと考えています。場所や大きさなど理想のカタチが具体的に決まっていなかったので一度都心で賃貸に住みながら考えようと妻と話し、3〜40件の賃貸物件を見て回りました」
そこで得たのは「魅力を感じる間取りや使い勝手のいい家がない」という失望。
「日本のゼネコンや不動産業に一気に疑問が湧きました。住みたいと思う家が、ひとつもないのは、どういうことかと」
髙島氏の見解はこうだ。いわゆる外国人向けの高級賃貸は、どこもリビングには面積を割くが、個々の居室に広さがない。
「自分の計算でいくとやはりマスターベッドルームには20畳ほしい。私たちのようなシニアカップルには、究極をいえばゆとりある1LDKでもいい。そこにゲストルームを加えて2LDKなら、かなり満足度が高まる。シニアはやはり使い勝手とQOL(クオリティ オブ ライフ)を求めるわけなのに、どのマンションも実用性だけにこだわった作りなっているんです」
今回、ゲーテからの撮影オファーを受けるかどうか、髙島氏は直前まで迷ったという。なぜならこの5LDKデュプレックスの家は、仮の住まいだから。
「ここは建築家も入り、かなりゆとりのある作りになっている。部屋を囲む4箇所に広いテラスがあり、マンションなのに開放感があるのも魅力です」
吹き抜けを囲む回廊からリビングルームを見下ろすと、黒で統一された完璧なコーディネートが目に入る。
「いやいや、これは全部前の家から持ってきたもの。そこも黒でまとめていたんです。今の気分は、もっと明るいグレイッシュやベージュにしたいんだけど、それは次の家のコーディネートで思い切りやりたい」
そう話すが、選んだ家具はどれも思い入れのあるものばかり。
「久しぶりに都心のマンション暮らしをして、この高さ(4階)から街並みを見渡すのは、なかなか気持ちのいいものだと気づきました。そして理想がかなう家が見つからないのなら、いっそマンションを建て、最上階に大家として暮らすのもいいかなと思い始めたんです」
髙島氏が理想とするのは、QOLを上げる家。生活を楽しむ家づくりがしたいという。
「今の住宅事情は、食事でいうところの『栄養のための(生きるための)飯』。『楽しむ食事』ではない。僕は豪邸ではなく、暮らしを楽しめる家を作りたい。コロナ禍で日常が変わり、今後ますます時代の先を読み、思考回路を柔軟にしておかないと、ダメな時代なのかなと思う。今は会社に時間を取られない分、身体はゆっくりできるけど、頭はフル回転しています。終の住処を探しながら、メラメラッと攻めの気持ちが生まれてきた。センスのいい家、生活を楽しむ家を作れたら、自分の終の住処ができるだけでなく、そこにビジネスの勝機もあるんじゃないかなと思っています」
所在地:東京都・港区
延べ床面積≒285.02平米
構造:RC構造
Fumio Takashima
1956年福井県生まれ。’90年バルス設立。ホームファニシングというスタイルの店舗「Francfranc」を国内外に展開中。コロナ後の四半期に増収増益を出したことでも話題に。著書『遊ばない社員はいらない』など。