漫画の世界に身をおくことで、仕事における“大切なもの”を学ぶ
広告・PR・マーケティングの専門家集団、GOを率いる経営者にして、自身もクリエイティブディレクターとして現場に立つ三浦崇宏氏。幼少期から漫画に親しんできた三浦氏が、特に思い入れのある漫画というのが、博報堂在籍中に出合った『左ききのエレン』。孤高のアーティスト・エレンと、広告会社でトップクリエイターを目指す光一を主人公にした群像劇である。
「作者のかっぴーさんも広告会社出身なので、エピソードも登場人物も、とにかくリアル。周りから『できるわけない』と茶々を入れられて逆に闘志を燃やすとか、師匠と仰いだ人とコンペで競うことになった時のワクワク感とか、ここに描かれているほとんどのことは僕も経験しています。だから、ものすごく感情移入できる。仕事で凹んだ時に読み返し、『そうだよな、そもそも仕事って大変なものなんだよな』と、自分に喝を入れることもしょっちゅうですよ。登場人物たちも本当は実在していて、SNSでつながっている気さえする(笑)。そのせいか、『あのなかの誰よりも活躍したい!』と、奮い立たされてもいます」
作品と読み手というよりも、自身がその世界に身を置いているような付き合い方をしている三浦氏。それは作品のリアリティはもちろん、「天才になれなかったすべての人へ」というテーマの存在も大きい。圧倒的な才能を持ち、芸術の世界に身を投じるエレンに対し、広告業界でもがき続ける“普通の人”、光一。芸術と商業アート、天才と凡才。それぞれが抱く悩みや苦しみ、喜びと達成感が津波のように押し寄せ、モノをつくる人間の心をヒリヒリとさせる。
「年齢やレイヤー問わずほぼすべての広告クリエイターが、芸術家に対する嫉妬と憧れ、自分への苛立ちと焦り、そして自分たちの仕事に対するプライドを抱きながら、日々葛藤している。少なくても僕は、天才じゃなくても戦い方しだいで人生は変えられると信じてやっている。そもそも広告って、一発逆転のテクノロジーなんですよ。放っておいても売れるなら、広告を打つ必要はありませんから」
特に「あらゆる社会の変化と挑戦にコミットする」をモットーに掲げているGOに持ちこまれるのは、難しい案件が大半だ。
「絶体絶命をひっくり返すわけですから、頭は常にフル回転で、めちゃめちゃ大変。でも、それがすごく楽しいし、ワクワクする。“一発逆転”は、僕の人生のテーマでもあるんです」
漫画に影響を受ける原体験となったのが、小学3、4年の頃に出合った『花の慶次』。負け戦に挑む慶次の侠気(きょうき)にしびれると同時に、「人生で大事なのは、損得や勝ち負けではなく、ありたい自分に近づけたかどうか」という三浦氏の生き方の指針をつくった作品だ。
「中高生の頃に読んだ『グラップラー刃牙』からは、自分の美学を貫くには命がけで戦うことも必要だということ、そして個の力を磨く大切さを学びました」
『アイシールド21』にハマったのは、大学時代。弱小チームが、選手それぞれの能力を活かした戦略を用いることで強豪チームを倒すストーリーに、チームづくりの面白さを知った。
「メンバーの才能を活かし、適材適所に配置することで、チームの力は何百倍にもなる。これは経営者となった今、組織づくりの参考になっています」
無謀とも思える戦いに挑み、知恵を絞り、チーム一丸となって勝利をおさめる。三浦崇宏の快進撃の裏には、“座右の漫画”の存在が、確かにある。
広告業界を中心にモノをつくる人間の葛藤をリアルに描く
大手広告代理店勤務の朝倉光一と天才アーティスト・エレンを中心にした群像劇。かっぴー氏による原作版は、2016年からWEBサイト『cakes』で連載され、現在は、『少年ジャンプ+』でリメイク版が連載中。「クリエイター誰もが抱く苦悩や葛藤が凝縮された作品。博報堂時代は駆けだしデザイナーの光一に、独立してからは光一の師匠や上司に感情移入することが多くなりましたね」
戦国時代に活躍した前田慶次郎利益の生涯を描いた歴史漫画。不利な戦と知りつつ命を賭して挑む慶次の生き様は、まさに“男が惚れる男”!「強いうえに文学にも秀でていて、とにかくモテる。男が憧れる人生のモデルケースのひとつですね。大切なのは損得や勝ち負けより、ありたい自分に近づけたかどうか。そんな僕の美学は、慶次に大きな影響を受けたものです」
地下闘技場で極秘に行われる何でもありのトーナメントに挑むのは、世界最強を目指す男たち。主人公、刃牙の闘いだけでなく、全試合を丁寧に描き、格闘家それぞれの生き様をも浮き彫りにする。「トーナメントに出場する32人はどのキャラも魅力的。しかも社会に出ると、刃牙にこんな人いたなと、感じることがよくあります。ある意味、男の図鑑みたいなものですね(笑)」
いじめっ子から逃げるために磨いた走力を買われ、弱小アメフトチームに入団することになった主人公のセナ。策略家・ヒル魔(ま)や巨漢・栗田など、“一芸” 集団が、一発逆転でのし上がる。「敵チームの圧倒的天才が、『オレが22人いりゃそれがドリームチームだ』と言うと、ヒル魔が『同じコマ22枚なんてチームほどぶっ殺しやすいカモもねえわなぁ』と。あのセリフ、しびれます」
Takahiro Miura
2007年に博報堂入社。マーケティング・PR・クリエイティブの3領域を経験し、’17年に独立してGOを設立。10月29日には新著『超クリエイティブ─「発想」×「実装」で現実を動かす』が発売される。