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2020.11.21

【阿部勇樹】挑戦欲を再認識したミシャとの出会いについて

阿部勇樹は輝かしい経歴の持ち主だが、自らは「僕は特別なものを持った選手じゃないから」と語る。だからこそ、「指揮官やチームメイトをはじめとした人々との出会いが貴重だった」と。誰と出会ったかということ以上に、その出会いにより、何を学び、どのような糧を得られたのか? それがキャリアを左右する。ミハイロ・ペトロヴィッチ編2回目。【阿部勇樹 〜一期一会、僕を形作った人たち~26】

阿部勇樹

新しいタスクを与えてもらえるのは、成長の機会になる!

ミハイロ・ペトロヴィッチ監督のことを選手たちはみな「ミシャ」と愛称で呼ぶ。このことからも、監督と選手たちの間柄は容易に想像できるだろう。ミシャはいつもチームのことを「ファミリー」と表現し、選手はもちろん、スタッフにも気を配る父親のような人だ。

セルビア(旧ユーゴスラビア)出身のミシャは、オーストリアのSKシュトルム・グラーツで現役を引退後、イビチャ・オシムさんのもとで2シーズン、アシスタント・コーチとして仕事をしている。2006年彼がサンフレッチェ広島の監督に就任後、2012、2013シーズン連覇を果たす広島の土台を作った。

ミシャのサッカーの特長を一言で表すなら「全員攻撃、全員守備」だろう。ゴールキーパーからボールをつなぎ、ビルドアップしていく。ゴールキーパー、ディフェンダー、中盤、そして前線へとボールを運ぶためには、全員が攻撃に関与する。逆にボールを奪われれば、全員が守備に関与しなければならない。ボールを持っている選手、近くにいる選手だけでなく、ピッチのどこに立っていようと、常に関わりが求められるサッカー。

そのためには、選手も走らなければならない。ただ闇雲に走るのではなく、そこに意図が必要だ。でなければ、コンビネーションは生まれない。後ろの選手が攻め上がり、最前線へ行くこともある。チームが勝つため、ゴールを奪うため、ゴールを守るために、選手全員が連動して、動いていく。もちろん選手個々のアイデアも重要だけれど、共通理解がベースになる。だからこそ、「全員攻撃、全員守備」だ。

2012年、僕が移籍加入した浦和レッズは、ミシャをもとに新たなスタートを切った。

ミシャのトレーニングは、ゲーム形式が多いため、練習の雰囲気は盛り上がっていく。選手はなんだかんだいっても、ゲームをやっているのが一番楽しいから。そんな練習を重ねることで、自然とチームとして、向かうべき方向、目指すべきサッカーが形づくられていく。

意思疎通がうまくいき、選手間で同じ絵を描き、生まれたコンビネーション。そして、それが結果に繋がれば、選手のモチベーションも当然高まる。

たとえ、勝利できなかったとしても、「自分たちがやってきたことをしっかりと出せたのか、出せなかったのか」をミシャは重要視していた。だから、その姿勢にブレがないので、僕らもブレることなく、前へ進めた。

新しいサッカーに取り組み、それを身に着けるのは、簡単なことではないけれど、チャレンジしていると実感できるのは、選手として高い充実度をもたらしてくれる。

僕は長く、ボランチというポジションでプレーしてきた。ボランチというのは、ハンドルを意味するポルトガル語。ディフェンスラインの前に立って、攻守のバランスを取りながら、チームの舵取りをするのが仕事だ。

ボランチがポルトガル語であることからわかるように、これはブラジル的な考え方で、ヨーロッパでは、センターミッドフィルダーと呼ばれ、守備的というわけでもない。だから、レスターでは、中央で攻守のバランスをとることだけでなく、攻撃にも守備にもどんどん関与していくことが求められたし、僕自身ももっとそこを磨いていかなければいけないと考えていた。

そこで出会ったのがミシャだったのだ。

「どんどん、ボールを受けて」

試合中、ミシャからそう指示を受ける時は、たいていチーム内でボールが回っていないことが多かった。

「チームが困っている時は、ボールを受けれるところに顔を出せ、ボールの受け手にならなくちゃいけない。僕が動くことで、ボールがうまく回るようにしなくちゃいけない」

指示の言葉は短いが、ミシャのサッカー、自分たちのサッカーを考えた時、自分がやるべき仕事をそう理解していた。そして、ミシャは遠まわしに「もっとチャレンジできるだろう。もっとやれ!」と言ってくれているんだと、思っていた。

オシムさんからずっと「チャンレジしろ」と言われてきた。ミシャの言葉からも同じように「リスクを負ってでもチャレンジしろ」というメッセージを受け取っていた。

新しいタスクを与えてもらえるのは、サッカー選手に限らず、どんな職種の仕事をしている人にとっても、成長の機会になるはずだ。

ミシャのもとで、僕自身のバランサーとしての仕事、ビルドアップという特長や強みだけでなく、攻撃にも関与していくという任務を与えられた。それはレスターで考えていた自分が高めたいスキルでもあった。そして、ミシャとともに過ごした6年近い時間で、自分のプレーの変化を感じ取れるのは、彼によって、サッカーの面白さをまた教えてもらったからだと思う。

年齢を重ねると、チャレンジがしづらくなる。挑戦する気持ちが薄れてしまうこともある。けれど、ミシャとの出会いで改めて、チャレンジの重要性を認識させられた。

30歳を過ぎて、ミシャと出会えたタイミングは、僕にとってはベストタイミングだった。実は浦和への移籍を決めるうえで、ミシャとサッカーをしたいというのも大きな理由だった。だから、よい決断ができたと思っている。

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=Getty Images

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