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2020.10.02

14歳になった“飛び込みのエース”玉井陸斗が成長曲線を描く理由【コロナ禍のアスリート】

約1年の延期が決まった東京五輪。本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかでメダルを目指すアスリートの思考や、大会開催に向けての舞台裏を追う。

コロナ禍のアスリート

Getty Images

日本選手権で2冠を達成

コロナ禍によるビデオ会議システムを使用したリモート取材。2月の国際大会派遣選手選考会以来、約7ヵ月ぶりに目にした少年の体はタブレットの画面越しでも明らかに大きくなっていた。シニアデビュー戦を優勝で飾った昨年4月の日本室内選手権から身長は9センチ伸び、体重は10キロ増加。1メートル52、46キロとなり、声変わりもしていた。

9月11日に14歳の誕生日を迎えた飛び込みの玉井陸斗(14=JSS宝塚)が日本選手権(9月25~27日、新潟)で、高飛び込みと板飛び込みで2冠を達成。「最高です。自分らしい演技をすれば高得点を出せることが分かりました。最近は自分に自信がついてきて、プレッシャーにもあまり動じなくなりました」と低くなった声を弾ませた。

東京五輪出場を目指す本命種目の高飛び込みのスコアは528.80点。8月の関西選選手権でマークした自己ベストを25.20点も更新した。国際大会は採点が厳しくなる傾向があるために単純比較できないが、2016年リオデジャネイロ五輪の銅メダル相当で、昨夏の世界選手権にあてはめると銅メダルまで12.15点差の4位となる。3本目には大技109C(前宙返り4回転半抱え型)を繰り出し、ジャッジの1人が10点満点をつける圧巻の演技を披露。2位に114・95点差をつける独走Vだった。

東京五輪出場の可能が消滅している板飛び込みも安定した演技を並べて2位に40.25点差で優勝。1995年に寺内健(40=ミキハウス)の記録した14歳11ヵ月を更新する男女通じた最年少Vとなった。昨年の日本選手権では高飛び込みで最年少優勝している。馬淵崇英コーチ(56)は「想像以上の成長」と驚きを隠さず「2024年パリ五輪は板飛び込みと高飛び込み、2種目で勝負させたい」と青写真を語った。

板飛び込みは高さ3メートルに位置するジュラルミン製の弾力ある板から飛び込む。体重が増えたことで板をしっかり踏み込めるようになったことが飛躍につながった。一方の高飛び込みは高さ10メートルのコンクリート製の台からダイブ。競技の特性として体の成長が回転力低下につながる傾向があるが、玉井は体幹を徹底的に鍛えることで回転軸のぶれない体作りに成功。「体重が増えたことで宙返りが鈍くなったりする部分はあるけど、1年前とあまり変わらない。苦労はない」と言い切った。

所属するJSS宝塚の練習拠点に高飛び込みの練習ができる設備はない。高さ10メートルの台から飛ぶ時は主に大阪府内のプールを使用するが、コロナ禍の影響で緊急事態宣言が明けた後も週2回程度のペースでしか通えていない。苦肉の策として、トランポリンやマット上で空中姿勢を確認する基礎練習を繰り返した。これが奏功した。馬淵コーチは「仕方なく陸上での練習を増やしたが、それが基礎の安定につながった。今までは時間をかける余裕がなかった部分をじっくり積み上げたことが好結果につながった」と分析する。

東京五輪が通常開催され、玉井が出場していれば、13歳10ヵ月で迎え、1932年ロサンゼルス五輪の競泳北村久寿雄(14歳10ヵ月)を抜く日本男子最年少記録だったが、大会の1年延期により記録達成を逃した。「最年少を狙っていたので、今年五輪をやりたかった」と本音をのぞかせた上で「1年延期で演技は安定する。悪いことじゃない」と前を向いた。

高飛び込みでの五輪出場権を懸けたW杯東京大会は来年2月に開催予定。準決勝進出ラインの18位以上で五輪切符を獲得できる。ケガ防止のため自転車に乗らず、体育の授業の球技は見学。牛タンが好物で食べ盛りだが、急激な体重増加を避けるために炭水化物を減らすなど食事にも気を遣う。すべては五輪のため。

「東京五輪では自分らしい演技をして皆を驚かせたい。ダイナミックな演技で表彰台に立ちたい」と思いを馳せた。チャームポイントのつぶらな瞳の奥に映るのは、東京五輪でメダルを掲げる自身の姿に違いない。リモート取材のため、瞳を凝視することはできなかったけど……。

TEXT=木本新也

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