約1年の延期が決まった東京五輪。本連載では、まだまだ先行きが見えないなかでメダルを目指すアスリートの思考や、大会開催に向けての舞台裏を追う。
収入は1450万ドル(約15億5000万円)と推定
外出自粛期間に体重が10ポンド(約4・5キロ)増えた。本業ではないファイナンスの勉強に取り組むことも決めた。NBAウィザーズのドラフト1巡目ルーキー八村塁(22)はコロナ禍によるリーグ中断期間を有効活用し「今までこういう時間を作ることができなかったので、いろいろ学べた。将来的に何をする必要があるかを見据えて、時間を無駄にせずに使えた」と胸を張った。
3月11日からNBAが中断に入ると、八村はチームの用意した練習拠点で肉体改造に着手した。ウエートトレーニング中心のメニューで体を鍛え「体重も増えて、体つきも大きくなったと言われる」とパワーアップに成功。ブルックス監督からも「塁はここ4ヵ月で間違いなく体が強くなった。体重は増えたが、動きに影響はない」と太鼓判を押された。
5月中旬に体育館での練習が解禁されると、課題である外からのシュートを特訓。中断前の3点シュート成功率は27・4%(73本中20本成功)に低迷したが「3点シュートは自信を持って打てるようになった。ミドルレンジからのシュート、ボールハンドリングなども練習した」と充実の時間を過ごした。
コーチ陣と一緒に中断前までの試合の映像もチェックし、自身の長所や修正点などを確認した。今季の八村は41試合に出場し、1試合平均13.4得点6リバウンドを記録。約2ヵ月の故障離脱期間を除き、主力としてプレーした。「これまでNBAの試合を見る機会がなかったので、今までにないことを学べた」と頭のトレーニングにも余念はない。
空白の時間ができたことで、コート外の取り組みにも目が向いた。八村は「今後は税金とかファイナンスについて勉強したい。米国だけでなく日本にも税金を払わなければならない。自分のお金をすべて自分で管理するのは大変だけど、できるだけしたい。こういう機会を生かして学びたい」と言う。米経済誌フォーブスは、昨年6月のドラフトで1巡目(全体9位)指名された八村の今季収入を、年俸や契約金、スポンサー収入を合わせて1450万ドル(約15億5000万円)と推定。今後の活躍次第で来季以降はさらに伸びる可能性もあるだけに、財テクの知識を増やすに越したことはない。
NBAは7月30日にシーズンを再開する。ウィザーズは東地区でプレーオフ進出圏内の8位まで5.5ゲーム差の9位。フロリダ州オーランドで集中開催されるレギュラーシーズン残り8試合で4ゲーム差以内に詰めれば、8位とのプレーオフ進出決定戦に駒を進められる。
チームは7日夜にオーランド入り。34時間の隔離期間を経て、現地での練習をスタートしたが、ケガや新型コロナウイルスの影響で主力を大量に欠く非常事態に陥っている。今季1試合平均30・1得点を量産した大黒柱のビールが右肩故障で離脱。3ポイントを武器に1試合平均15・4得点を記録したベルタンスはコロナ感染予防のために欠場を決めた。上位2人のスコアラー不在に加え、ブライアントとペイントンはコロナの検査で陽性反応を示したため、チーム合流が遅れた。
八村は攻撃の軸とし期待される存在となり、練習中から積極的に声を出すなどリーダーシップを発揮。「自分でもその(攻撃の中心になる)ことを意識している。得点だけでなく、プレーメークも積極的にやりたい。今はその立場にならなければいけない。ブラッド(ビール)やDB(ベルタンス)がいないので、チームが若くなった。僕にとってもチームメートにとっても大きなチャンス。1年目のシーズンをしっかりと終わらせるためにも、プレーオフを目指したい」と力を込めた。
昨年6月のNBAドラフトで日本人初の1巡目指名を受けてから、1年余り。昨年10月のマーベリックスとの開幕戦で14得点10リバウンドの“ダブルダブル”を達成する戦列デビューを飾ってからは、約9ヵ月しか経っていないが、その言動からは新人とは思えない風格が漂い始めている。