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2020.06.21

【中田英寿/に・ほ・ん・も・の外伝】100回以上泥水に浸けてできあがる伝統の大島紬<鹿児島①>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

にほんもの外伝

1300年の歴史を持つ南国・奄美の工芸品

奄美空港から車を走らせること約30分。澄んだ青い海、力強く生育した南国の木々の先に、「金井工芸」の小さな工房はある。照らす日差しはギラギラと鋭い。しかし、そよぐ風は穏やか。物干し竿では染色中の布が静かに揺れている。

「日本では沖縄が南国として有名ですよね。奄美と沖縄の大きな違いは、奄美のほうが手つかずの自然が多い点でしょうか。伝統工芸品として有名な大島紬は1300年以上の歴史を持っていて、デザインや図案、染め、織りと分業で作られてきた、島の基幹産業でした。この島で育つ車輪梅を染料として、泥の中で鉄分と化学反応させることで染め上がる独特の色は、この島でしかできないものです」(金井志人さん)

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車輪梅は東北地方南部以南に生息する低木だが、奄美で育つ車輪梅からとれる染料は特に色が濃いと金井さんは言う。中田英寿はこれまでも各地の工房で紬織と触れてはきていたが、大島紬が生まれる場所を訪れるのは今回が初めてだ。

「大島紬といえば濃色で深い輝きのシルクが有名ですが、ほぼ黒く染まるにはどれくらい染めを繰り返すんですか?」(中田)

「80から100回程度ですね。染料につけて、泥のなかで化学反応させ、干して、洗う。これをひたすら繰り返します。天気が良ければだいたい1週間くらいの作業です」(金井さん)

一通りの工程について説明を受けたのち、中田も泥染めを体験する。ゴムの胴長をつけて、泥田に浸かる。自然のなかで手を動かす中田の表情は明るい。一度の作業で、白い糸はくすんだピンク色に染まる。

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「意外と染まりますね。でもこれを100回も繰り返すのか……」(中田)

この泥には、150万年前の古い地層から水に出た鉄分が含まれており、それがここにしかない土を作っているという。そんな希少な自然資源が生み出す工芸品でありながら、かつて島内に100以上存在した泥染めの工房は、現在では5、6軒程度にまで減ってしまったそうだ。

「僕は一度奄美を離れて、25歳のときに島に戻って工房を継ぎました。地域とも良い繋がりを持ちながら、地元の人や移住してきた人と、この文化を受け継いでいくことを楽しみながらやっています」(金井さん)

工房の脇にはモダンなギャラリーがある。そこではタペストリーやストール、Tシャツやワンピースなど、泥染めを施した小物や衣類を展示・販売している。日本古来の伝統技法と現代生活を融合させる金井工芸には、首都圏からのコラボレーション企画の相談もしばしば持ち込まれるという。若い職人の感性が、日本のもつポテンシャルを再び発見し、受け継いでいる。

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「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/

中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。

COMPOSITION=青山 鼓

PHOTOGRAPH=淺田 創

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