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2020.05.12

この時代になにが難しいかというと、それは待つことだ。ドリアン助川【ゲーテの名言⑬】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2009年11月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

奇跡は信仰の愛児だ

――『ゲーテ格言集』より

神がかり的なできごと。人間を超越した能力。宗教の開祖には奇蹟にまつわる話がつきものだ。人智を越えたドグマを共有できて、信仰は初めて成り立つようなところがある。

その是非はともかく、自分自身に対する信仰があるとするなら、それもまた同じ構造から発せられる。自己の可能性を信じられるかどうかは、内的な奇蹟を体験できたかどうかによるところが大きい。

宝くじが当たった? そうではない。それは外側の確率論の話だ。たとえば自己に起きる奇蹟とは、世の中に対する怒りでいっぱいになっていた人が、雨宿りをしている親子を見かけた瞬間、誰にも大切な人がいるのだと気付き、世界の見方を一変するような経験である。あるいは酒なしではやっていけない人が、手が震えながらもそれを我慢し、一晩の読書に勤しむ。その強さを持つことを本人が初めて知り、内側への視線を改めることである。

つまり奇蹟とは、心のなかに起きることを言う。誰の尻が宙に浮いたとか、手から時計を出したとか、前世が見えたとか、バラエティ番組の喜びそうな奇蹟ではない。心で経験した奇蹟だけが自分への信仰につながるし、それがあることにより、待つことの能力も育まれていく。

今、この時代になにが難しいかというと、それは待つことではないだろうか。どんな分野でもすぐに結果を求められる。一年先ならまだしも、五年先、十年先となれば、とんでもないという話になる。ましてや三十年、五十年先の成果を考え、などと言おうものなら「生きてないよ」と失笑を買うばかりだろう。

だから、年々大木の育たない環境になりつつある。宰相が一年単位でころころ代わるように、国の行く末もまったく見えない。方向がある程度決まれば、作り上げていく努力も、待つこともそれぞれやり遂げる民が住んでいるというのに……いや、そうではないのかもしれない。待つことができない民ばかりになってしまったから、奇蹟を謳う怪しげな人物の、前世がどうのなどという後ろ向きの作り話で一喜一憂したりする。だからみんな、本当の意味での前が見えなくなっている。

偉大な力は遠くにあるのではない。あなたの一番そばで、ともに未来を見つめている。

――雑誌『ゲーテ』2009年11月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。2015年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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