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2020.05.05

待つという姿勢は、行うということと等しく重要。ドリアン助川【ゲーテの名言⑥】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2008年8月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

意志の力で成功しないような場合には、好機の到来を待つほかない

――『ゲーテとの対話』より

ゲーテは仕事場に気圧計を用意していた。気圧が高い時は仕事がはかどるが、低い時は集中力を欠く自分の体質をよく理解していたからだ。曰く、「精神が肉体に負けてしまわないよう」に、気圧の低い時はいちだんと努力をしたらしい。こんな姿勢で創作を続けたからこそ歴史に名を残す人物になったのであろうが、凡俗からすれば、そこまでやるかという感じは否めない。

ところがこの超人的な文豪でさえ、どうにも筆が進まない日々はあったようで、純粋に創造性が試される詩作に於いては、「無理にやってもだめなことがある」と素直に認めている。そういう時は落ち込まずに、ワインでも呑みつつ、感性の扉が開くその瞬間を待ちなさいよ、というわけだ。

ゲーテだってこうだったのだから、ぺんぺん草ひとつ生えないような荒涼とした日が私たちにあるのはいたって自然なことだ。むしろ私などからすると、そうした日々の方が圧倒的に多い。筆が進んで仕方がないですなんて日は、数年に一日もないのではないか。

ただし、自戒を込めて言うのだが、ゲーテの言う「待つ」とは、私のように酒に浸りきるような待避ではないはずだ。呻吟しようが身もだえしようが、開闢(かいびゃく)はここから先にあると信じ、そのやっかいな仕事にどっぷりと浸っていなさい。彼もよく呑んだようだが、心持ちとしてはこちらの方だろう。放り出すなよ。焦らずに取り組み続けろと。

一方でこの言葉は、できない自分を許せ、長い目で自らを見守れと、激励してくれているようにも思える。

だめな時はだめなのだ。なにごとにもバイオリズムがある。芽が出るのは春だ。葉が繁り、花が咲くのは夏だ。実りは秋。それなのに私たちはこのサイクルを見誤る時がある。冬に種を蒔いておいて、なぜ芽を出さないのだと苛ついたり、芽が出てすぐに実りを得ようと焦ってみたり。待つという姿勢は、行うということと等しく重要なのである。

それでも待てない、堪え性がないという人は、気圧計でも買いなさいとゲーテがヒントを与えてくれている。

なぜならゲーテもたぶん、それを言い訳に使ったことがあるはずだからだ。世間と、自分に対する言い訳として。

――雑誌『ゲーテ』2008年8月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。 ’15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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