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2018.12.02

【松浦勝人】いずれダメになるんだったら、ぶっ壊して前に進んじゃえ

matsuura

投資は事業じゃなくて、人に対してするもの

先日、両親と食事をした。父親は昔からお酒が好きで、母親は美味しいものが好き。だから美味しいお酒と料理が楽しめる店を用意した。でも、父親はあまり飲まず、日本酒に水を入れて薄めて飲んでいる。母親も美味しいと言いながら少ししか食べない。大きな病気を乗り越えてきたこともあるけど、父親ももう80近い。「近頃は飲めなくなった」と寂しいことを言う。

この何年か、世の中があまりにも不透明で不安が多く、この国はどうにかなってしまうのではないかという思いもあって、リスクを負うような投資もせず、お金を減らさないようにしてきた。自分の将来や老後が怖くて、お金を持っておこうとどこかで思ってしまっていた。

でも80歳になった親を見て、いくらお金を貯めておいても、使おうと思った時に使えなくなっているかもしれないと思った。

この何年か、僕は"まじめ"の魔法にかかっていた。上場企業のCEOなんだから、立派な経営者でいなければいけないと思いこんでいた。お酒も飲まない。どうしても飲まなければならない席でも口をつける程度。朝早く起き、運動をし、シャワーを浴びてスーツを着て出社する。それが立派な経営者だと思いこみすぎていた。

誕生日が近くなって、周りは屋形船だのパーティだのいろいろな企画を考えてくれた。でも、全部やめてほしいと断った。せっかく我慢に我慢を重ねて規則正しく、品行方正な生活習慣を身につけたのに、誕生日でお酒を飲んでしまうと、それが全部崩れてしまう。

でも、周りが準備してくれたものをすべて断るわけにもいかない。それで誕生日パーティをやった。案の定、バカ騒ぎになった。みんなでバカなビデオを撮って、バカなことばかりして、朝から晩までお酒を飲んだ。その大騒ぎを眺めながら、そういえば、僕はずっとこうやって息抜きをしていたなと思いだした。昔の僕は毎日こうだったよなと思いだした。

昔から僕のことを知っている人は、”まじめ"な僕を見て「らしくない」と言う。騒がない僕を見て「つまらない」と言う。昼は会社で懸命に働き、夜になると大騒ぎをして発散し、寝ずにそのまま会社に行って、また懸命に働く。そういう狂ったような空間や出来事のなかから、さまざまな大ヒットが生まれてきたことは間違いない。それが僕だったよなと思いだした。

体が自由に動くのは70歳ぐらいまでだろう。だったら僕もあと15年。その間に、やりたいことはやって、無駄遣いをするわけじゃなく、有用なものであるならば、お金も使ってみようと思うようになった。

それで今、ホテル住まいを始めてみている。短期間なら経験あるけど、長期間暮らしたことはない。今回は1年ぐらい、飽きるまで住んでみようと思う。僕にとっては相当に思い切った贅沢。ホテルに住むことにどんな意味があるのかわからない。でも、今までやっていなかったことをやってみようと思う。

エンジェル投資もやっていく。ライヴ周りで面白いことをやっている知り合いがいて、とにかくその本人が面白い。投資は事業じゃなくて、人に対してするもの。いくら数字やデータを持ってこられても、その本人が信じられなければ投資はできない。でも、企業として投資をする場合は、どうしても数字やデータという客観的なもので判断をしようとする。だから、個人でエンジェル投資をする。

依田(エイベックス元会長)さんは、50歳ぐらいの時に20代前半の僕と出会い、僕を信じて人生を賭けてくれた。この出会いがなければ、今のエイベックスは存在しない。これ以上年をとると、僕の人を見る目も曇ってくるかもしれない。ちょうど投資をすべき時期なのだと思う。

社内にも面白い人物がいる。ゲームやアニメの分野で面白いことを考えている。社員なので投資はできないけど、彼に思いっきり裁量を与えて、どんどん進めてもらおうと思っている。

ゲームの世界は今変革期で、潮目が変わろうとしている。ゲームはすべてクラウドになって、コントローラーさえ手元にあればいいようになる。内容だって、ただ遊ぶだけじゃなくて、eスポーツのようにゲームをやる人、それを見て楽しむ人が出てくる。ということは、必ず、誰が勝つか負けるかという勝負が生まれる。そこに何かがある。潮目が変わって新しいものが生まれる時期には、エイベックスにも大きなチャンスがある。

古いものが壊れて、新しいものが生まれる。その変革期に、いずれダメになることがわかっているのに、そのタイミングをできるだけ遅らせようと考える人たちがいる。でも、僕たちは、いずれダメになるんだったら、ぶっ壊して前に進んじゃえというマインドを持っている。

実際にそうするかどうかは別として、CDだって売れなくなっているんだから、配信中心の発想に変えてみたら? 芸能プロダクションの発想ってアメリカと比べたら古くない? 海外って個人契約が多いじゃん! 値段がつくうちに売っちゃって、新しいものをどんどん作った方がよくない?

古くて劣化しているものは、どんどんぶっ壊して先に進む。反発する人が出てくるのは当然。どのタイミングでぶっ壊すかも重要。でも、「ぶっ壊して前に進む」という考え方を持っているのが、エイベックス。

世の中がどんどん変わっていく。変わっていく先を読んで、そこに投資をしていく。今まで、「CDがなくなる」「音楽は配信になる」「ライヴが主流になる」と世の中の先を読んで、それを社内外で口にしてきた。でも、自分がダメだなと思うのは、わかっていたのになんでもっと早くやれなかったんだよ、ということ。僕は評論家じゃないから、思っただけでは意味がない。経営者なんだから、やらなきゃ意味がない。

僕にはあと15年しか時間がない。"まじめ"の魔法にかかった自分も、古いエイベックスもぶっ壊して先に進む。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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