2009年10月から現在まで、雑誌「ゲーテ」に連載中の「素人目線 松浦勝人の生き様」がついに1冊の単行本になった! その名も「破壊者 ハカイモノ」。業界の常識はエイベックスの非常識。古きを壊し、新しい秩序をつくり出す経営者の覚悟の告白の数々。今回、その序文を特別公開する。
自分より大きな存在を発見すると、叩きつぶさずにはいられない
毎月1回、「ゲーテ」の読者に向かって話をして103回、8年7ヵ月。一度も休むことなく話をしてきた。自分でもよく続いたものだと思う。
特にテーマを決めるわけでもなく、その時その時、僕が思ったこと、感じたことを話してきた。読者に向かって話しているフリをして、自分に向かって自問自答していたのかもしれない。自分は今何を考えているのかという確認作業のようなものだった。だから続いたともの言える。
その「ひとりごと」を、今回読み返してみると、間違ったことを言っている箇所もある。今の考えとは違ったことを言っている箇所もある。でも、その時はそう思っていた。その記録を残す意味でもあえて訂正はしなかった。
でも本質的なことは変わっていない。今と同じことをずいぶん前から言い続けている自分を再発見した。その瞬間の思いつきを話してきただけなのに、今読んでみると線でつながっている。自分はもっと一貫性のない人間だと思っていたから意外だった。音楽は、CDではなく、サブスクリプションサービスになり、ストリーミングになっていくということを、ガラケーしかない時代にもう語っていて、自分でも少し驚いている。その時は、自分の予測通りに世の中が動くなんていう確証は1ミリもなくて、ただ、その時に「こうだ」と思っていることを話している。
音楽に対する姿勢、仕事に対する姿勢も、なんだか今とまったく変わらない。この連載をやる間に、8年7ヵ月分自分も年をとり、世の中の動きはガラケーからスマートフォンになり、業界を取り巻く環境も激変した。でも、自分の音楽に対する想い、エイベックスに対する想いは、ずっと変わらないのだなということが確認できた。
今のままで、いいわけがない
もうひとつ、確認できたのが、自分はなんて熱中しやすく、冷めやすいのかということ。その時には、熱中してハマって、熱く語っているのに、1ヵ月後にはすっかり冷めているというものがたくさん登場してくる。朝の散歩だとか、英会話のレッスンだとか、ネットの新しいサービスだとか。
自分の知らないもので、面白そうなものには、どうしても好奇心が動いてしまう。そして、一定期間とことんハマる。寝ても覚めてもそのことを考える。遊びのレベルをはるかに超え修行のようにのめり込む。そして自分の中でそのものの本質をつかんだと感じた時、興味は次のものに映っていく。
だから「趣味はなんですか?」と尋ねられるのがいちばん困る。先月だったら「釣り」と答えたと思うけど、今月は少なくとも釣りではない。でも、来月また釣りにハマるかもしれない。明日自分がどうなってるかわからない。
僕は、子供の頃からずっと「今のままでいいわけがない」という危機感の中で生きている。現状というものに満足したことがない。上場した時も、さすがに上場したその日はどうだったかまでは覚えていないけど、すぐに「今のままでいいわけがない」という不安が、以前の何十倍にも膨らんでいった。
本社ビルを建て替えた時も、いろいろな人が「すごいビルですね」と褒めてくださった。でも、僕の心の内には「あっちのビルのほうがデカいじゃん」という思いしかない。それは向上心などという美しいものではないと思う。自分より大きな存在を発見すると、そこに挑み、叩きつぶさずにはいられない。ずっとそれでやってきた。大きな存在に挑み叩きつぶす。これを続けていないとこっちが不安に押しつぶされそうになる。この苦しみから逃れたい、すべてを捨てて自由な存在になりたいと思うこともないわけではないが、もし自由になったらなったで、自分は何をして生きていけばいいのかと不安になるのだと思う。
いつホームレスになっても仕方ないと思っている
いつも不安の中にいるから、無謀な挑戦もできた。エイベックスは、その時その時で大きな勝負に挑み、成功し、なんとか荒波を越えて成長してきた。不安の中にいるから、常に最悪のシナリオを考える。エイベックスが明日倒産して、僕は家族ともども路頭に迷うというシナリオも常に頭の中にある。信じてもらえないかもしれないがいつホームレスになっても仕方ないと思って仕事をしている。
だから、大きな勝負ができる。賭けに出られる。最悪の場合でも、被害はここまで、死ぬわけではないと腹をくくり、戦いに行くことができる。最悪のシナリオがわかっているので、怖くない。どんな結果になっても、「最悪はまぬがれた」と大胆になれる。後から振り返れば、「よくあんな思い切ったことができたな」と思うこともあるけど、その時は、「やるしかない、やり切るしかない」という危機感と覚悟がった。それだけ。
そもそも僕は、何か目標を持って、音楽ビジネスを始めたわけではない。上場企業をつくろうと思って起業をしたわけでもなんでもない。ただただ、長い、終わりのない階段を一段づつ上がっている。上がりながら広々とした踊り場が見えてくると、そこまでは絶対に上がっていきたいと力を振り絞る。踊り場に立って、右に行くべきか、左に行くべきかわからなくなり不安になる。でも決断し、また階段を上がる。それをずっと繰り返してきた。
わかりやすく言えば、音楽にハマっていたし、ビジネスにハマっていたのだろう。不思議とこの2つだけは、飽きずに長続きをしている。僕の階段は、まだ屋上がまったく言えていない。屋上があるのかどうか、上がり切ったら何が待っているのかすらよくわからない。それでも、僕は不安の中にいながら、階段を上がっていく。それが僕だと思うから。
松浦勝人
『破壊者 ハカイモノ』
松浦勝人
幻冬舎 ¥1,400