船上では、紳士たるものはどう振る舞うべきか? クルーズのエキスパート、上田寿美子さん・英夫さんご夫妻に30年にわたる経験で身につけたクルーズの嗜みをお聞きした。【特集 クルーズ&列車の旅】

1.乗る目的を明確にすればマイベストシップとなる
クルーズ会社はそれぞれ船の規模やサービス内容などによって主に「ラグジュアリー」「プレミアム」「カジュアル」という3つのクラスに分類されることが多い。だが、「個人的には、こうしたカテゴリー分けは各客船の個性をぼやかすので好きではありません」と寿美子さん。
「例えばご夫婦ふたりだけの特別なアニバーサリークルーズなのか、それともお子様連れの夏休み旅行なのか、目的によって適した船が変わります。船やツアーの特徴をよく調べて、カテゴリーではなく目的に即したクルーズ客船を選べば、それがマイベストシップになると思います」
2.寄港地を味わい尽くす。それがクルーズ船の醍醐味
船の中で過ごす時間だけがクルーズではない。寄港地を存分に楽しむこともクルーズの醍醐味だと寿美子さん。
「寄港地ではさまざまなエクスカーションも用意されています。船の中では次の寄港地の文化や歴史を学ぶ講座が開かれることがあり、クルーズならではの異国巡りができます。参加してその土地についての知識や教養を得ることで、目的地に向かうにつれて徐々に気持ちを高めていく。それができるのがクルーズのいいところなんです。こんなに移動の時間が楽しくて有意義な旅って、他にはないと思います」

3.大人も子供も大満足な大型船に存在する別世界
いわゆるカジュアルクラスには乗客が4,000人を超える大型のクルーズ船が多く、ウォータースライダーなどのアトラクションや子供向けのプログラムなども充実しているため、ファミリークルーズ向けという印象がある。だが、楽しみ方はそれだけではない。
「大型客船の中には、ホテルのスイートフロアのように他のゲストとは区切られたラグジュアリーな区画を設けている船も少なくありません。客室はもちろん、専用のラウンジやダイニングも用意されているので、多彩な娯楽施設を活用しながら、静かで贅沢な時間も楽しめます」
4.クルーズを楽しむならバー巡りは外せない
クルーズで特に男性にお薦めしたいのが、バーの愉しみ方にあると英夫さん。
「船は昼と夜でガラリと世界が変わります。さぁ、いよいよ夜が始まるというタイミングで、装いを替えて、僕たちは必ずバーに立ち寄って食前酒を飲みます。夕暮れ時、海が赤く染まる絶好のロケーションでマティーニを味わう。そうすると食欲が湧き、ディナーも美味しくいただけるんです。隣り合わせたゲストと軽く言葉を交わすのもまた楽しい。船にはいろいろなロケーションのバーがありますから、食前にも食後にも足を運んでいただきたいですね」

5.オールインクルーシブ! 基本チップは必要なし
クルーズの多くは、宿泊や食事、基本的な船内プログラムの参加費などを含めたオールインクルーシブ・スタイル。
「ほとんどの船ではチップ代も含まれますが、個人的に特別な頼み事に応じてもらった場合は、その時、または下船前夜にチップを渡すと喜ばれるでしょう。シルバーシー・クルーズは全客室バトラーつきでシャンパーニュまでフリードリンクというクルーズも行っています。テールコートのバトラーが、客室までシルバートレーでシャンパーニュとキャビアを運んでくるという非日常を味わってみてはいかがでしょうか」

6.南極でドレスアップ!? これぞ粋なフランス船
クルーズでは白のコーディネイトを身につける『ホワイトナイト』というテーマナイトがよく開催されるそう。
「なかでもお洒落だったのがフランスのクルーズ会社ポナンの『ル コマンダン シャルコー』の南極でのホワイトナイト。女性はワンショルダーの白いドレスにフェザーを纏うとか、男性は白いジャケットに白いベスト、白いシャツ、白いパンツでタイだけブラックとか、皆さん個々人でドレスアップを楽しんでいるんです。外に広がる南極の真っ白な光景と相まって、それはもうゴージャスなホワイトナイトでした」

7.ドレスコードは二極化。タキシードは必要ない!?
ハイクラスなクルーズには厳格なドレスコードがつきものというイメージがあるが、最近ではそうした客船は限られると英夫さん。
「キュナードのフォーマルナイトなどではタキシード着用のゲストも少なくありませんが、常にエレガントカジュアルでOKという船も少なくありませんし、ドレスコード自体設けていないクルーズもありますよ。ドレスアップするもしないも自分しだい。ただ、僕はなるべくジャケットを着るようにしていますし、ネクタイとボウタイを1本ずつと、アクセントとしてポケットチーフを常に持っていきます」
8.恥をかかないマナーはマイワイフ・ファースト!
クルーズの旅で、男性として恥をかかないよう心得ておくべきマナーは、と英夫さんにたずねると、「マイワイフ・ファーストですね」と即答。
「レディ・ファーストの世界ですからエレベーターなどで女性を先に乗せるのは当然のことですが、どの場所でも注意しなければいけないのは必ず奥様を自分や他の人より優先すること。劇場などでもまず奥様を席に座らせる。そうしないと外国人の多い船内では『非常識な人だな』と思われます。日本人はつい夫が先に立ちがちですが、マイワイフ・ファースト、ぜひ覚えておくといいと思います」


上田寿美子&英夫 氏夫妻
寿美子さんはクルーズライターとして30年以上にわたって豪華客船を取材し、外国客船の命名式にも招待されるなど世界的に活動。英夫さんはカメラマンとして同行し、夫婦揃って2ヵ月に1、2回の頻度でクルーズに乗船するという日本きってのクルーズ通。
この記事はGOETHE 2025年7月号「総力特集:豪華クルーズ船&列車の旅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら