世界中のエグゼクティブは、ウインターシーズンになると雪山を目指す。良質な雪と絶景、そして上質なスパやレストランのある最高峰のスキーリゾートをホテルジャーナリスト、せきねきょうこが厳選。今回は、スイスのリゾートホテル「ベルヴェデーレ グリンデルワルト」を紹介する。【特集 絶頂スキーリゾート】
「映画のワンシーンのような、非日常の空間」
世界的にスキーが冬の代表的なレジャーやスポーツとなったのは、1924年、第1回シャモニー冬季オリンピックがきっかけだと推察されている。筆者である私は、スキー休暇をライフスタイルの冬のワンシーンとする人々が、世界の高級ホテルで繰り広げる昔ながらの過ごし方に惹かれている。
スイスの山岳リゾート、グリンデルワルトに3年間ほど住んだ経験のある筆者は、知人の経営する老舗高級ホテルを住まいとしていた。聞こえはいいが、最小の部屋をさらに割安で借りて住居とし、毎日、仕事場である観光案内所に通っていたのだ。
ラグジュアリーなホテル暮らしとは一線を画すものの、それでもヨーロッパの裕福なゲストの過ごし方を身近に観察できた。非日常の空間で体験した貴重なシーンがことごとく私の記憶に残り、「ホテル」という魅惑の世界を綴りたい思いが募った。こうした経験こそがやがて現職に就く布石となったのである。
筆者が暮らしたリゾートホテル「ベルヴェデーレ グリンデルワルト」は、優に創業100年を超える老舗の高級リゾートだ。秋の端境期(はざかいき)にはメンテナンスで閉館し、雪の季節になるとドアを大きく開けて冬の常連客を待ちわびる。スキーヤー、ホテル愛好家、政治家、セレブリティなどさまざまな顧客が集い、互いの再会を歓び合う様子は映画のワンシーンのようである。上顧客は毎年、最低でも1週間、長ければクリスマス時期や新年を含め3週間もの滞在に至る。冬のハイシーズン中、2泊、3泊という観光客の予約が取れ難いのはそんな理由からである。
山岳ホテルらしい一例は、“ハーフボード”(朝夕食つき)という滞在だ。これは夕食時にゲストがいつものテーブルに着かないと、山での事故かと案じる暗黙の知らせとなる。
一方、祖父母から親、親から子へと世代を超えて継がれて来館する上顧客も名を連ねている。彼らは特別なことはせず、読書、昼寝、カフェを訪れてのおしゃべりタイム、時々のスキー、夕暮れ時のシャンペンなど、別荘代わりに過ごしている。
そして休暇を終えてホテルを離れるその日。「来年のために同じ部屋の予約を」と、多くの常連客が翌年の部屋の確保に躍起となる。老舗の山岳ホテルに継承される風物詩は感動的でもある。こうした別れの日のロビーには、「1年後にまたここで会おう」と握手を交わすいくつもの笑顔が舞っている。
スイス|グリンデルワルト
名峰“ベルナーオーバーラント三山”の麓に広がる牧畜と観光の村。夏は高山植物を求めるハイキングや本格登山、冬はウィンタースポーツで村が最も華やぐ。驚くほど整備された交通網と美しい大自然が観光客を魅了する。