2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
海辺の砂で栽培されたミネラルたっぷりの甘いイモ
鳴門市の平地を行くと、道路の左右でまったく異なる景色が広がっている。かたや水をなみなみと湛(たた)えたれんこん畑。そして反対側に鳴門金時の砂だらけの畑が広がる。訪ねた8月末は、ちょうど鳴門金時の収穫が始まる時期。瀬戸内おみやげコンクールで最優秀賞を受賞したサブレ「月へ鳴門へ」にもつかわれる、絶品の鳴門金時をつくると評判の喜瀬康信さんの畑を訪ねた。足元は歩くたびにギュッギュッと音がするほどの砂地。まるで砂浜を歩いているような感覚だ。
「本当にサラサラの砂地で栽培しているんですね」(中田英寿)
「海辺の砂を運んで畑を作っています。このあたりは降水量も少なく、水はけのいい畑でつくることでイモのなかに糖質がたまりやすくなる。だから甘くてミネラルを豊富に含んだ金時ができるんです」(喜瀬さん)
広々とした金時畑の収穫は、芋掘り専用のマシーンで行う。早速中田も乗り込んで収穫を手伝うことに。畑にエンジン音が響くと、マシンが砂を掘り起こし、次々と金時を車上にあげる。遠目にもわかるくらい立派なイモがどんどん砂中からあらわれる。
「こんなにデカいんですね。やっぱりおすすめは焼きイモですか?」(中田)
「焼きイモにするなら、少し小さめのヤツがいいかな。均一に火が通るから。大きいのは輪切りにして天ぷらにするのが一番美味しいかな」(喜瀬さん)
そんな話をしている間にも次から次に鳴門金時が掘り起こされる。まだ真夏の暑さの徳島だが、秋の味覚に期待が高まる。収穫後は、砂だらけの鳴門金時を水洗い。美しい紅色の皮がツヤツヤに輝き、ますます美味しそうに見える。さて、そろそろ試食の時間。心のなかのヨダレがとまらない。出てくるのは、焼きイモか天ぷらか……。
「鳴門金時は、収穫からできれば2ヶ月以上、最低1ヶ月は貯蔵して追熟させることでさらに美味しくなります。食べごろになるのは10月から11月くらいですね」(喜瀬さん)
そんな夏の日から2ヶ月が過ぎた。季節はすっかり秋。そろそろいい感じに熟しただろうか。リベンジではないけれど、美味しい鳴門金時を取り寄せて食べてみたいと思う。
「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/