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2020.10.01

コロナを乗り越えKYOTOGRAPHIEが開幕! 伝統工芸をつなぐ「Kiwakoto」の新たな挑み

新型コロナウイルスにより会期を仕切り直し、9月19日にスタートした8回目を数える「KYOTOGRAPHIE」。片山真理やウィン・シャをはじめ世界の写真作家10名が、今年も京都らしい趣ある各会場で作品を発表する中、京都在住の写真家である外山亮介と、その展示をサポートした「Kiwakoto」との出会いとその姿勢を通して、写真展とのシナジーを見つめたい。

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同じく職人と技術を後世に伝える写真家との出会い

新型コロナウイルス感染症の影響で春から秋に会期を延期し、クラウドファンディングでも資金を補うかたちでこのほど開幕した「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020」。

2019年からその協賛に地元企業の筆頭として名を連ねる「Kiwakoto(きわこと)」は、継承者不足が深刻な京都の伝統工芸の技術を次の世代につなぐため各分野の職人たちと協業。古語で「格別である様」を意味する「際殊」という名の通り、“お誂え”の文化を受け継ぐべくクルマの内外装のカスタマイズと、その特別な手仕事を宿しつつ普段使いができるプロダクトを開発するブランドとして、2018年に誕生した。

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京都・河原町二条にある「Kiwakoto」本店のエントランス。友禅染革のキーケースや名刺入れなどビジネスシーンに使える雑貨も。

今年のKYOTOGRAPHIEでは、毎年注目の企画が行われる建仁寺の塔頭寺院である「両足院」での展示を、Kiwakotoとして初サポート。京都の山間部を拠点に自然と共生していた時代の日本の暮らしのなかで制作を行う外山亮介が、東京手描友禅染の家に生まれながらも兄弟も含め一人として家業を継がなかった自身の葛藤と向き合うため、2008年に「種」というタイトルのもとフィルムで撮影した日本各地の同世代の工芸職人たち20人を、10年を経て再び訪問。新たに50×60cmもの大判の自作カメラを向け、薬品を塗布したガラス上に撮影時の光を焼き付ける写真聡明期のアンブロタイプ技法で撮影した肖像は「芽」と名付けられ、「種」と「芽」の両作品を晴れて「導光」と名付け発表した。

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「芽」の展示より。広島の熊野筆の職人を写したアングロタイプはガラスに映り込んだこちらの魂も写すよう。©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2020

「10年後の彼らを、ただ前回と同じように既製品のカメラを使いフィルムで撮影するのでは窮屈になって、伝統工芸の作品のように素材から手で作る写真とはどういうものなのかを考え、写真史を辿り、タルボットが発明したカロタイプをはじめ様々な古典技法を試しては、もがき続けました。たどり着いたアンブロタイプは、被写体に1分半から3分間くらい活動を停止してじっとしてもらう必要があって、撮影している光だけでなく職人たちの魂を吸い込んでいる感覚になる。それこそ昔は『写真を撮ると、魂を抜かれる』という迷信もありましたが、肖像写真を等倍に、彼らが生み出した工芸と一緒に展示することで、まさに一人一人の魂がそこに立ち上がるような作品になっていればと思います」(外山)

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自作のアンブロタイプカメラ。外山は「種」の際に職人たちに10年後の自分宛てに書いてもらった手紙を持参し、読み返してもらった上で、撮影に臨んだ。

展示会場のデザインは安藤忠雄建築研究所出身で、そのロビーに五木田智夫らの作品を展示するなどアート好きの間で話題の「node hotel」を手掛けた同じく京都を拠点とする気鋭の建築家、竹内誠一郎が担当。外山の作品はもちろん、両足院の見事な池泉回遊式庭園を透過できるように会場と庭の間仕切りに帽子の型紙に使われる黒の紗を設置するなど、今までにないモダンなアプローチが秀逸だ。これは両足院の副住職である伊藤東凌から座禅の際に教えられたという、視覚情報を減らし五感を活性化させる眼差し「半眼」を空間として捉え直したもの。

竹内の起用には「今回の展示では伝統工芸の世界を僕たちが未来にどう残していけるかを伝えたかったので、あえてコンテンポラリーなスタイルの建築家にお願いした」と語ったKYOTOGRAPHIEの共同設立者である仲西祐介の想いも込められている。

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黒い御簾で光を遮断しながら、作品を浮き上がらせた「半眼」の空間。なお「種」の作品群は両足院の毘沙門天堂に展示中。©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2020

その上で記しておきたいのが、Kiwakotoと外山との出会いが偶然のものであり、数年前のKYOTOGRAPHIEの一会場だったということ。この巡り合わせに関して、Kiwakotoを立ち上げた、やはりKYOTOGRAPHIEの協賛を担うマツシマホールディングス副社長の松島一晃は「職人のストーリーと魂に深く接し、それに負けない表現方法を探求されて、後世に伝えていく姿勢に深く共感した。KYOTOGRAPHIEもコロナで厳しい時だからこそ、サポートさせていただく意味があった」と振り返る。

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庭園にある茶室 臨池亭では、写真誕生以前の投影装置カメラオブスキュラを体験。巨大なレンズは外山が撮影技法を試行錯誤する中で入手したもの。©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2020

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茶室 臨池亭の内部に映し出された風景。現像工程などにおける環境負荷も大きい写真へのアンチテーゼを込めた展示でもある。 ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2020

なお、Kiwakotoでは新たなプロダクトとして、京都の五条坂にある素明窯の三代目・井上路久を迎えて、ブランド初となる器を開発中。KYOTOGRAPHIEに際してプロトタイプがお披露目となったが、これまでのように職人のアイデアだけでなく、数々のグローバルブランドとのクリエイティブな協業をはじめ多様な領域で活躍するアートディレクター米津智之がデザインに加わるなど、果敢な進化を続ける姿勢は、コロナ禍に屈せず開催を果たしたKYOTOGRAPHIEとの確かなシナジーから生み出されている。

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KYOTOGRAPHIE全体では明治建築の京都府庁旧本館など新会場も話題に。旧議場では今回キービジュアルに採用されたOmar Victor Diopの作品を展示。©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2020

KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭 2020「VISION」
2020年10月18日(日)まで
TEL: 075-708-7108
https://www.kyotographie.jp

Kiwakoto本店
京都市中京区河原町通二条上る清水町359 ABビル1階
TEL: 075-212-0500
https://kiwakoto.com

TEXT=Text=岡田有加(81)

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