スポーツワゴンという新ジャンルを確立したスバル「レガシィ」【クルマの教養】

国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、クルマ業界の今を深堀する。最先端のモデル紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深く堀る!

どこか野暮ったいスバルをイメチェン

スバルといえば、カジュアルなクロスオーバー「スバルXV」やスポーツワゴンの「レヴォーグ」など若々しくスポーティなクルマを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、30年以上前となる昭和のスバルといえば、質実剛健なクルマづくりこそ定評を得ていたものの、煌びやかな他社の最新モデルと比べると、野暮ったい印象も強かった。

そもそもスバル(旧・富士重工業)の原点は、中島飛行機という国産飛行機メーカーにある。戦後、飛行機をつくれなくなったエンジニアたちが、乗用車づくりに取り組んだのである。当時、世に送り出された「スバル1000」や「スバル360」は画期的なクルマとして、広く人々に愛された。しかし、徹底した安全性や信頼性など飛行機づくりを基にした真面目なクルマは、根強いファンを生む一方で、流行との距離は遠く、次第にマニアックな自動車メーカーとして捉えられてしまう。質実剛健さが支持された米国での販売こそ、好調であったが、国内の実績は今ひとつ。自動車のニーズが拡大する時代にありながら、会社の経営状態も決して良いとは言えなかった。

そんなイメージの払拭と生き残りをかけてスバルが世におくり出したのが、1989年1月23日に発表された新型車「レガシィ」であった。元号が、「昭和」から「平成」へと移り変わった直後のこと。まさに新時代のモデルであった。  

レガシィは、当時の主力モデル「レオーネ」の後継であったが、サイズアップや機能向上を図ることで、一クラス上の狙ったスバルの上級車に仕立てられた。スバルの未来を切り開く一台だけに、長年使い続けてきたプラットフォームやエンジンなどのクルマの基本メカニズムを一新。伝統の4WDにも磨きがかけられた。  

ボディタイプは、4ドアハードトップのセダンとステーションワゴンのツーリングワゴンの2タイプ。内外装デザインは、伝統の機能性を重視しながら、スタイリッシュさも追及。低い位置に搭載できる水平対向エンジンのメリットを活かし、低いノーズを強調したシャープなシルエットが生み出された。これは視覚的に走りの良さを訴える狙いもあった。ただカッコよさを追求しながらも、単に流行を追うのではなく、長く愛せる質の高いデザインを心掛けるなど、スバルの良き伝統はしっかりと受け継がれた。  

スポーツワゴンの誕生!

レガシィは、そのポテンシャルの高さを世に知らしめるべく、発売目前に、セダンのスポーツグレード「RS」による10万km世界速度記録に挑む。

アメリカ・アリゾナ州フェニックスのテストコースで実施された挑戦は、連続10万kmを走行し、その平均速度を計測するもの。これは国際ルールに基づく競技のひとつであった。アタックドライバーは全てスバル社員のみ。まさにレガシィ開発の集大成というべきチャレンジであった。その結果、10万キロ走破には447時間44分(19日間)を要し、223.345km/hという世界記録を樹立。レガシィの高い信頼性と高性能ぶりを世に知らしめた。

挑戦車であるスポーツセダン「RS」は、プロたちからも高い評価を得たが、レガシィのスポーツモデルが、5速MT仕様のセダンのみという設定であることが惜しまれた。ただスバルにも抜かりはなく、発売から8ヵ月後となる9月に、最上級グレード「GT」を発売する。

「GT」は、RS同様に、2.0Lの水平対向ターボエンジンを搭載するが、RSが最高出力220psであるのに対して、仕様を変更し、200psに抑えることで扱いやすくしたスポーツモデルである。セダンとツーリングワゴンの両方に設定され、4速ATが用意された(ワゴンは、5速MTも有り)。折しも、ハイテクな高性能車が爆発的に売れた時代である。人々は、高性能かつイージードライブが可能なGTに注目し、大人気となる。

特に、世の中に大きな影響を与えたのは、ツーリングワゴンGTの存在だ。それまでのセダンベースのワゴンは、仕事やレジャーに用いる多目的車であり、快適性こそ重視されたが、あまりスポーツ性能は追求されていなかった。そこにスポーツセダン同等の性能を持ち込むことで、多目的に使えながらも、運転する楽しさという新たな価値を加えることで、若者を含め、幅広い世代から支持されることになった。これがスポーツワゴンブームとなり、後に、「トヨタ・カルディナ」や「日産ステージア」などの他社の人気車が誕生するきっかけにもなった。

その志は、最新型車にも受け継がれる

その後のミニバンやエコカーのブームもあり、ツーリングワゴン市場は、すっかり冷え込んでしまった。しかし、先駆者であるスバルは、「レガシィツーリングワゴン」を独自に進化発展。現在は、レガシィの立ち位置の変化から、事実上の後継となるスポーツワゴンとして「レヴォーグ」をおくり出し、人気車となっている。またセダンについても、かつての「レガシィセダンGT」を彷彿させる「WRX S4」がある。他社が撤退したカテゴリーに、今なお力を注ぐだけでなく、成果を残す秘密は、やはり、中島飛行機時代から受け継がれる真面目なモノづくりにあるのだろう。

そのぶれのない志が、今もスバルを支えている。


Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。