人気ラーメン店、有名スイーツ、新規オープン店やユニバーサルスタジオまで、私たちはつい行列に並んでしまう。そもそも、なぜ行列に並んでしまうのか? また、並ぶ時間を短く感じる人と長く感じる人の違いはどこから生まれるのか? その理由を書籍累計40万部のベストセラー脳科学者が解説。
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並ぶ間隔によって、待ち時間の感じ方が変わる
「あなたが行列に並ぶとしたら、どのくらいの時間待てますか?」こんな質問をすると、人によって全く違う答えが返ってきます。
「60分だったら待てるかな〜」という人もいれば、「5分も無理」という人もいるかもしれません。民間の企業が行なった日本のアンケート調査(at home VOX 調べ)では「行列の待ち時間、何分まで許せますか?」に対して、「30分」と答えた人が32.9%で1位、2位は「10分」で21.6%、3位は「20分」で16%だったそうです。ちなみに1時間以上並べる人は11.6%、逆に5分以下の人は13.2%という結果が出ています(*1)。
つまり、人によって、行列を待てる時間は異なるということです。
ただ、並ぶのが好きではない人も、行列によっては時間を短く感じることはないでしょうか? たとえば、人気ラーメン店に並ぶのと、ディズニーランドのアトラクションに並ぶのとでは同じ1時間待ちでも、時間に違いを感じることがあります。
同じ時間なのに不思議ですが、この違いが生まれる理由の1つが「行列の前後の人との距離」が関係していることがわかってきました(*2)。
つまり、人と人との距離が近い状態、ギューッと詰め込まれて並んでいる場合は、時間を長く感じます。なぜなら、一人進んでもその距離が短いため、体感的に脳が前に進んでいると認知しづらいからです。一方、人との距離が離れていると1回で進む距離が長くなるため、体感時間は短くなります。
ですから、もし行列に並ぶストレスを少しでも減らしたい場合は、少しスペースに余裕を持たせて並んでみるとよいでしょう。
「日本人=行列好き」は嘘
日本人というと「行列好き!」というイメージがありますが、実際の研究では、日本人は行列好きとは言えないようです(*3)。
行列は専門用語で「同調行動(conformity)」の一種とも言われます。同調行動とは周りがやっていると自分もそうしたくなるという行動のこと。例えば、「赤信号、皆で渡れば怖くない!」という言葉がありますが、多くの人がやっていると、危険なことでも大丈夫だと思えてしまう脳のクセの1つです。間違った行動だとわかっていても、私達は、周りがやっていると同じ行動をしてしまう傾向にあるのです。
同調行動を比較した研究では、米国と日本では有意差はないというデータが出ていて(*4)、国民性というよりは、人それぞれの個性によるものと言えるかもしれません。
不安な人ほど行列に並びたくなる
それでは行列を苦に感じない人と感じる人の差は、何から生まれているのでしょうか?
昔から、同調行動には人によって差があることが確認されてきましたが(*5)、多くの研究からこんな傾向がわかってきています。
「不安が大きく、自尊心が低い人は、同調行動をしやすい」(*6,7)
「権威に弱い」人も同調行動しやすいのですが、その根底にあるのは「不安感の大きさ」でした。
私も以前、ホラー映画を見せた後の人の行動の変化を調べたことがあります。その結果、怖い映画を見て大きな不安感を感じた人ほど、周りと同じ行動をする傾向にありました(同じものを触ったり、食べたりします)。
これは動物も同じで、敵に襲われるような危険な状況では、周りと同じ行動をとることがわかっています。なぜなら、周りと同じ行動をしたほうが、圧倒的に生存率が高まるからです。群れからはみ出した個体は、敵から襲われ死亡する可能性が高くなります。専門用語で「公的自己意識」と言いますが、周りからどう見られているか気になる人も、周りと同調しやすいようです(*8)。
待てる時間にはセロトニンが関係している
また、行列を待てる人とそうでない人の違いは、脳内物質のセロトニンが関係しているようです(*9)。これはマウスの実験ですが、セロトニン神経が活性化していないマウスは、餌が出てくるのを待てません(せっかちです)。しかし、セロトニン神経を活性化させると、マウスは餌を長時間、辛抱強く待つことができます。
セロトニンは、リラックスしたときや安心したときに分泌される脳内物質。不安がある人が行列に並ぶと「みんなと一緒」という安心感を感じて、大量のセロトニンが出ることが予想されます。だからこそ、余計に長時間待てるのかもしれません。
ですので、仕事で失敗して落ち込んだり不安な気持ちになったときは、いろいろ悩むより、何も考えずに行列のラーメン店や人気店に並んでみるのも1つの方法です。ストレスが軽くなって、行列の時間まで短く感じられるダブルの効果が期待できます。
また行列に並ばなくても、みんなと同じ行動をするだけでも、不安が軽くなります。レストランで食事をしたり、温泉に入ったり、ジムに行ったりなど、周りの人が同じ行動をしている環境に身を置くと、脳は安心して不安が軽減されて驚くかもしれません。是非うまく利用してみてください。
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脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて2万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計38万部突破。最新刊『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』も好評発売中。
<参考文献>
*1 全国20〜60代の男女1,410名のインターネットリサーチ/2014年5月実施
*2 S. Otsubo, et.al. “Maintaining distance in a queue decreases the perceived waiting time and improve the mood: a verification in a virtual environment”, The 27th virtual-reality academic conference, 2022, 1E2-3
*3 Frager, Robert. “Conformity and Anticonformity in Japan.” Journal of Personality and Social Psychology 15 (1970): 203-210
*4 Takano, Y. & Sogon, S. (2008) Are Japanese more collectivistic than
Americans?: Examining conformity in in-groups and the reference-group
effect. Journal of Cross-Cultural Psychology, 39, 237-250
*5 Asch, S. E. (1956). Studies of Independence and Conformity: I. A Minority of One against a Unanimous Majority. Psychological Monograph: General and Applied, 70, 1-70.
*6 Takami K, Haruno M. Dissociable Behavioral and Neural Correlates for Target-Changing and Conforming Behaviors in Interpersonal Aggression. eNeuro. 2020 Jun 11;7(3):ENEURO.0273-19.2020
*7 Hamilton, C., & Mahalik, J. (2009). Minority Stress, Masculinity, and Social Norms Predicting Gay Men's Health Risk Behaviors. Journal of Counseling Psychology, 56, 132–141.
*8 Froming, W. J., & Carver, C. S. 1981 Divergent influences of private and public self-consciousness in a compliance paradigm. Journal of Research in Personality, 15, 159-171
*9 Miyazaki KW, Miyazaki K, Tanaka KF, Yamanaka A, Takahashi A, Tabuchi S, Doya K. Optogenetic activation of dorsal raphe serotonin neurons enhances patience for future rewards. Curr Biol. 2014 Sep 8;24(17):2033-40.