大人になって何かにハマったり、何かを習うことは、刺激的で日常を鮮やかに彩るもの。もしかしたら生き方がガラッと変わるかもしれない! これから始めたい趣味、嗜みを、その道のプロから最上&最新の品とともに教わる。今回は「茶道」を学ぶ。 【特集 人生を変える最強レッスン】
時を超えた茶の湯の教えが、新たなステージに人を導く
経営者や建築家、伝統工芸の職人などが、競って通う茶道の教室があるという。京都、東京などに稽古場を持つ茶道「芳心会」だ。主宰するのは、茶人の木村宗慎氏。少年期より茶道を学び、わずか21歳で「芳心会」を立ち上げた。茶道の指導に力を入れる一方で、茶の湯を軸とした執筆活動や展覧会の監修、国際工芸サミットのアドバイザーなど、多彩な活動で、そのまれな才能を発揮する。
「茶道の本質は客をもてなし、楽しませることです。まずは点前(てまえ)という型からお稽古を始めることが多いですが、そこには、客に気持ちよくその場を過ごしてもらうための所作や思いやりが宿っています」
たとえ1年に1度、半年に1度でもいいから稽古場に足を運んで、季節に合った室礼(しつらい)や道具に触れる。決まった点前を繰り返すうち、解けてくる茶道の教えもある。異業種の人との交流も、必ずインプットにつながると木村氏は言う。
「経営者はもちろん、一線で活躍される方は、どなたも忙しい。けれどそれを言い訳にしてお稽古の時間をつくれないのは残念です。忙しいとは、心を亡くすと書くでしょう。それでは何も生まれません。余白の時間こそが、自分を見つめなおし鼓舞することにつながります」
自己表現の場であり、もてなしの場である茶会
ひとつでも、ふたつでも点前を身につけたなら、自分で茶会をプロデュースすると、また見えてくることがあるそう。
「芳心会では、お弟子さんたちに毎年交代で茶会を企画してもらいます。ある年の門人の経営者が開かれた茶会では、縄文土器のコレクションを取り合わせの核にさまざまな見立てを披露されました。一方で、また違う年の会ではお弟子さんのデザイナーが、QRコードを市松にデザインした軸を床の間に掛ける斬新な室礼に挑戦されました。それぞれ、自分が表現し伝えたいものは違います。だからこそ、茶会は面白いのです」
人をもてなすために考え、準備し、実際に茶会を開くには、さまざまな苦労もあるし時間も必要。けれど、それをやり遂げた時に初めて、茶会本来の凄味がわかる。真剣勝負の実践をとおして、もてなす側ももてなされる側も、お互いを思いやり、その工夫や痛みを分かち合えるようになるからこそ、「人に対して優しくなれる」と木村氏は教えてくれるのだ。
「何千万円もする茶碗を用いる人もいれば、ゴミの中から取り出した朽ちた筒を花入に見立てる人もいる。それらを眺めながら、ともに茶を喫し、あんたもアホやなあと、お互いをゆるし笑い合える。究極のお付き合いかもしれません」
無心に茶を点てる時間、心から人を喜ばせたいと苦心するひと時。そんな一期一会を繰り返していくことで、いつしかそれぞれの人となりが、静かに深まっていくのだ。
この記事はGOETHE 2024年10月号「総力特集:人生を変える最強レッスン」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら