崖の上から広がる絶景、圧倒的な開放感に包まれるその家の家主は、沖縄移住10年目。2023年、沖縄で2軒目となる家が完成したばかりだ。沖縄ならでは家づくりのこだわりや、この地ならではの楽しみ方とは。【特集 沖縄に住む】
沖縄で暮らした知識と経験をもとに設計
5m近い天井高、壁の四方にある窓を開け放てば正面の海からの風が抜けていく。その大きな窓からは、太陽光がさんさんと降り注ぎ、庭木の影をくっきりと映しだす。
人材開発やイベントプロデュース業を営むGiveness International創業者の矢澤祐史氏が、奈良県から沖縄県南城市に移住したのは2015年のこと。世界遺産である斎場御嶽(せーふぁーうたき)にほど近い場所だ。その後沖縄で生活していくなかで、2019年に同じ南城市に高台の土地を見つけ購入、2023年に新たな家を完成させた。
「ライフスタイルを変化させたい。そう思って最初は沖縄にやって来たんです。仕事は順調でしたが自然の静けさのなかで、新しい創造性を見つけられたらと。移住してきて、家族や仕事仲間との関係はよくなりましたし、新しい人間関係もできた。沖縄が人生の土台になったと感じたんです。ですから新しく家を沖縄に建て、その土台を盤石(ばんじゃく)にしたい、そんな想いでした」
坂を上がり切った先にあるこの邸宅。けれど高台の頂に立っているわけではなく、上り着いた場所から少し下がった崖下に建てられている。それゆえこの家があたりの風景を遮ることはない。この土地にもともと住んでいる人たちに対して失礼がないよう、沖縄の建築家とともに家を建てた。
「この家の前に住んでいたのも同じ南城市、私はこの土地の人たちが好きなんです。だからその人たちが愛した風景を変えたくなかった。ここでは、ゴーヤを持ってきてくれるゴーヤおじぃや、伊勢海老を持ってきてくれるおじぃまで、いろんな方によくしていただいています。困った時は何でもおじぃたちに相談をしていますね」
家づくりの際に意識したのは、天井を高くすること。高台から海を見下ろす開放感のある土地だからこそ、室内も開放的であることにこだわった。日頃から仕事仲間や、地元の人を招いて食事を楽しむことも多いという矢澤家。天井が高ければ、大人数が集まっても圧迫感がない。四方にある窓からは風と光が抜け、この邸宅は人も空気も光も、風通しよく受け入れる。
さらにこの建築は、沖縄ならではの課題にも向き合っている。例えば、沖縄は1年を通して湿気が多いため、カビが発生しないよう、床下には炭を敷き詰め、ファンを回す。台風対策のために窓には余計な装飾はつけずシンプルにデザインするなど、この家を建てる以前から沖縄で暮らした知識と経験をもとにつくられているのだ。
「ここでは庭木の緑の成長がすごく早いんです。毎日水をやって手入れをしていますが、出張で2、3日留守にして帰ってくると、確実に大きくなっています。そういった自然の変化に気づける生活って贅沢ですよね」
休日はダイビングをしたり、船を出したりして海を堪能。自然に癒やされると、新しいビジネスアイデアも浮かぶという。土地と住む人の想いを大事にしながら、これからも矢澤氏は沖縄で生きていく。
Data
所在地:沖縄県南城市
敷地面積:2,033.37㎡
延床面積:441.15㎡
設計者:紀建設
構造:RC造
矢澤祐史/Yuji Yazawa
Giveness International 会長。1976年東京都生まれ。総合福祉財団を奈良と沖縄に設立した後、2017年Giveness International創業。人材・組織開発、不動産、グリーンデザイン、紅白いちご、国産バニラの生産など多角的な事業開発を行う。
この記事はGOETHE 2024年9月号「総力特集:人生の楽しみ上手が集う島 沖縄に住む」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら