1万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が、お金と離婚の関係について科学的に考察する。 ■連載「何気ない勝者の思考」とは
前回は近年、20年以上連れ添った夫婦の離婚が増えている事実をお伝えしました。日本では離婚の7割は女性から切り出されている事実に驚いた人もいるかもしれません。なぜ、女性のほうから離婚を切り出すことが多いのか? 近年、男性よりも女性のほうが結婚生活で大きなストレスを感じやすいことを示すデータが発表されました。
離婚後の幸福度は男女で異なる!?
これは、2017年に拓殖大学の佐藤一磨教授が、熟年離婚後の男性と女性の心理状態の変化をリサーチしたものです。下の図をみると分かりますが、離婚した年は男女ともにメンタルヘルスの状態が悪化します。やはり、離婚は相当なストレスだと言えるでしょう。
しかし、離婚して1年目以降に明確な差が出てきます(*1)。女性は1年後から急速にストレス状態から回復しますが、男性は時間が経っても十分に回復できません。3年後もまだ引きずっている状態です。
なぜ、男女で差が生まれるのか?
これにはさまざまな理由がありますが、その1つが「女性のほうが結婚生活で大きなストレスを感じているから」ではないかと言われているのです。
現在、男女平等が叫ばれていますが、日本の女性はまだまだ、家事や育児も含めて、物理的な負担が男性よりも多い傾向にあり、そこから解放されることで、幸福度が上がるのではないかと予想されています。
男性は逆に、妻に家事や食事を頼っていた分、ひとりで過ごすと負担が大きく、結婚前より幸せに感じにくい傾向があります。さらに、離婚すると趣味やスポーツへの参加率が激減し、その後もなかなか回復しないようです(あくまでも統計ですので、例外もあることに注意も必要です)。
女性より男性が幸せな家庭は破局する
「女性のストレス」が離婚を加速することを支持する、別のデータも出ています。
それが、女性の方が幸せを感じる家庭は離婚しませんが、男性のほうが幸せを感じる家庭は離婚リスクが上がるというイギリス・ドイツ・オーストラリアの3ヵ国のデータです(*2)。
つまり、女性が男性パートナーよりも幸せでないと感じている夫婦は、離婚リスクが高まってしまうのです。
この論文では、結婚生活を続けたければ「男性は女性よりも幸せになることはできない」とさえ表現していますが、まさに離婚を防ぐには男性が幸せかどうかよりかも、女性がいかに幸せかのほうが大切だということでしょう。
女性のストレスの正体の1つは「お金の使い方」だった
幸せであると感じられないのはストレスが原因です。それでは、家事以外の結婚生活で、女性のストレスは何から生まれているのでしょうか?
その大きな原因の1つが「お金の使い方」にあることがわかってきました。
カンザス大学の研究でも、離婚の最も大きな原因の1つが「お金に対する価値観の不一致」であることが報告されています(*3)。つまり、お金を浪費する男性と倹約する女性が生活すると、女性はストレスが大きく離婚の確率がグンと上がります(逆もしかりです)。
「お互いに割り勘でもOK」というカップルならOKですが、「相手に払って欲しい女性」と「割り勘を好む男性」が付き合っても、ほぼ長続きしないでしょう。
金銭感覚のずれは感情的な対立やけんかにもつながります。怒りや悲観的な感情をお互いにぶつけ合う夫婦は、10年後に離婚確率が高まることもカルフォルニア大学のリサーチでも判明しています(*4)。
夫婦別会計は離婚の温床!?
この金銭感覚のストレスに拍車をかけるのが、夫婦別会計という経済習慣であることが、2022年の最新研究からわかってきています(*5)。
これは、イギリスの研究者が3万8534人のカップル・夫婦にアンケートを行い、お財布の共有化と幸福度についてリサーチしました。
その結果、最も満足度(幸福度)が高かったのは、収入をすべて一緒に管理しているカップル・夫婦(同会計)。その次が収入の一部をプールしたグループ(一部会計)で、全くお金を共有しないグループ(別会計)は関係への満足度が最も低いことがわかりました。
しかも、同会計カップル・夫婦ほど、将来別れにくいこともわかりました。つまり、夫婦別会計な人は、同会計の人達より幸福度が下がり、かつ、離婚リスクも高まってしまうのです。
私も実際に、夫婦別会計をしている40代の女性に話を聞いたことがありますが、「子供の学費は俺が払ってるんだ!」「旅行代は私が払ったのよ!」とお金のことでよく口論になるそうです。
そうなると、結局どちらも譲らず、男性は口を聞いてくれなくなってしまうとのこと。別会計にすることで、衝突頻度が格段に上がってしまっている可能性があります。
夫婦別会計は、自分の好きなことにお金が使えたり、個人的な楽しみに関する出費をパートナーに知られたくないという欲求も満たされて便利です。しかし、一方でリスクも抱えることも意味します。また離婚経験がある人は、別会計になりやすいというデータも出ています(*6)。
近年は共働きが増えており、収入は夫婦別々に管理しているケースも増えてきているようです。2017年のある日本の調査では、17.3%(約6人に1人)が完全別会計のようです(*7)。しかし、お金の価値観がずれていたり、夫婦がギバー(与える人)でなく奪う性格(テイカー)の素質を持っていると、別会計は長年連れ添った相手との関係が冷え切る結果につながってしまう危険性を秘めています。十分気をつけてください。
<参考文献>
(*1) Sato, K. (2017) The rising gray divorce in Japan: Who will experience the middle-aged divorce? Does the middle-aged divorce have negative effect on the mental health? Presented at International Population Conference of the International Union for the Scientific Study of Population.
(*2) Guven, C., Senik, C., Stichnoth, H.(2012). You can’t be happier than your wife. Happiness gaps and divorce. Journal of economic behavior and organization, 82(1), 110-130.
(*3) Feffrey Dew, Sonya Britt, and Sandra Huston, 2012, “Examining the Relationship Between Financial Issues and Divorce”, Family Relations Interdisciplinary Journal of Applied Family Science, 61(4), pp. 615-628
(*4) Lavner JA, Bradbury TN. Why do even satisfied newlyweds eventually go on to divorce? J Fam Psychol. 2012 Feb;26(1):1-10.
(*5) Gladstone JJ, Garbinsky EN, Mogilner C. Pooling finances and relationship satisfaction. J Pers Soc Psychol. 2022 Dec;123(6):1293-1314.
(*6) Heimdal, K. and Houseknecht, S. (2003) ‘Cohabiting and married couples’ income organization: approaches in Sweden and the United States’, Journal of Marriage and Family, 65, 3, 525–38
(*7) サンケイリビング新聞社「ぎゅってWeb」および「シティリビング」読者アンケート/2017年8月1日~8月22日/有効回答数 636人(20~40代既婚子あり女性を抜粋)
■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。