新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。 連載「アフターコロナのお金論」はこちら。
約20年ぶりの円安水準へ突入
ドル円相場が一時1ドル=130円台に達し、政府は足元の急速な円安進行に懸念を強めています。
アメリカの利上げ傾向にロシア・ウクライナ情勢も加わって輸入品の価格が高騰しており、その輸入価格の高騰が身近な商品やサービスの値上げを引き起こしています。そして賃金がその伸びを補うように伸びていない今の状況については好調な景気による物価高での円安ではなく「悪い円安」との見方となり、日本は経済的に混迷の時代に突入していくという見方も多いです。その円安を通じた輸入品などの価格上昇は、私たちの家計にとっても大きな負担となってきています。
円安が今回のテーマです。
まず基本として、外国の通貨の価値に比べて円の価値が高くなることが円高、反対に低くなることが円安です。
例えば、ドル円相場が1ドル=100円から1ドル=90円になれば、円の価値が上昇したことになるので円高と呼ばれ、1ドル=110円となれば、反対に円安と呼ばれます。
円高、円安は政治的・経済的要因によって外国為替市場における円への需給が変化することで生じます。大枠で表現すると、円高では輸入品が安くなり物価を下げる効果がありますし、円高が続けば輸出産業は苦しくなるという傾向にあります。
また、戦後日本は長い間固定為替相場制でしたが、1973年以降は変動為替相場制となったことで円高・円安といった為替の変動が起きるようになりました。
ここでお金のトレーニング。日本は1973年までは固定為替相場制でしたが、その時のドル円相場は1ドル何円だったでしょう?
答えは1ドル=360円です。
日本では1971年のニクソンショックまで1ドル=360円の固定為替相場制でしたが、1973年から変動為替相場制に移行しました。ニクソンショックとは、1971年にアメリカのニクソン大統領が金とドルの交換停止を含む一連の経済政策を発表した世界的な出来事です。
ここで金と通貨との交換停止について背景を知るには、金本位制を知る必要があります。金本位制とは、政府の銀行が発行した紙幣と同額の金を保管しておき、いつでも金と紙幣を交換することができる制度のことでした。
一時はアメリカは世界の金の約70%を保有することでドルを世界の基軸通貨にすることに成功し、そのアメリカが金とドルとの交換をいつでも保証していました。ただ、アメリカも戦争による軍事費拡大などが原因で財政が一気に悪化。その結果として金が国外へ大量流出し、金とドルを交換できなくなったため交換停止を突如発表したのです。
そのニクソンショックをきっかけに1ドル=360円という固定為替相場制は終了。日本の経済成長を支えた輸出産業が縮小するのではないかという懸念が広がりました。実際にそこから円高ドル安傾向が進み、日本の輸出産業は厳しい局面へと入っていったのです。
続いてお金のトレーニング。固定為替相場制が終了し変動為替相場制移行後、ドル円相場史上最高の円高は1ドル何円だったでしょう?
答えは1ドル=約75円です。東日本大震災が起きた2011年、円高ドル安が進みドル円相場は史上最高値をつけました。このとき円が買われて円高となったのですが、地震や原発事故は日本経済に打撃を与えるのに、なぜ円が買われたのでしょうか。
まずは円は比較的安定した資産なので世界情勢に不安が大きくなると円に買いが集まる傾向にありました。有事の円買い、という言葉さえありました。
さらに日本は経常黒字国なので、海外に製品を輸出して得た売上や、海外で保有する証券から得た利子や配当などが、日常的にドルから円に換えられています。一方で、国内の投資家は海外に投資するために円をドルに換えています。普段は円買いと円売りのバランスがある程度とれているので、円相場が安定しています。しかし、国内投資家が海外への投資に慎重になるとバランスが崩れ、円高が進みやすくなります。諸説ありますが、東日本大震災のように国内投資家の不安心理が高まる局面では円高に振れやすくなるとも言われています。
円安が私たちの生活に与える具体的な影響については、物やサービスの値上げです。
例えば「うまい棒」。子供から大人まで定番のお菓子ですが、1979年の発売以来、希望小売価格は10円のままでした。しかし2022年4月出荷分から12円に値上げとなりました。そもそも40年以上値上げされていないことが物価が上がらない日本の景気の悪さを反映してはいますが、今回の値上げは景気の好調ぶりを反映してのものとは残念ながら違っており、原材料のトウモロコシや植物油が値上がりし、運送費などの経費も上がっているところに、円安による輸入コストの増加が重なり価格維持の限界となったのだと考えられます。
円安によって原材料の輸入コストが増加すれば、製造コストも増加します。同じ商品を高い原材料で製造するので、価格を上げなければ採算が合わなくなるのです。
インフレの時は基本は物価があがりますが、今回は経済全体が拡大傾向にあるときに起こるインフレと異なり、製造コストの増加に起因するインフレですので、賃金が上昇しないまま物価だけが上昇します。だから日々の暮らしや企業活動を圧迫することになり悪影響と言われているのです。
また、輸出とは関係ない国内電力やガスの輸入コストも増加しますので、水道光熱費の上昇が家計を直撃することも考えられます。
最後に物価について、お金のトレーニング。2021年11月の消費者物価指数各品目を10年前と比較した時に、物価上昇率が1位の品目はなんでしょう?
答えは「高等学校授業料(公立)」です。当時の政府の方針で公立高校の授業料無償化を実施していたこともありますが、「高等学校授業料(公立)」は10年間で17倍にも上昇しています。2位の「さんま」が2.5倍、3位の「いか」が2.2倍です。その他にも牛肉、豚肉なども加えた88品目の価格が日本銀行が示す物価上昇率目標である年率2%を上回るペースであがっています。
輸出大国である日本では、かつて円安が歓迎されるムードがありました。しかし、企業活動のグローバル化が進んだ現在、安易な円安誘導は経済構造自体に悪影響を与える結果も考えられます。
今回の歴史的な円安以外にも、日々の生活に影響を与えるお金の変化は今後も起こり続けますし、その変化の速度はテクノロジーの進化によりますます加速していくことでしょう。
現代のような変化の時代では、どういう変化がおきても対処できるように、騙されたり気づかぬうちに損しないように、一人ひとりが正しい金融リテラシーを習得することが大切なのではないでしょうか。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。
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