16年前に「宇宙旅行」のチケットを買った男がいる。宇宙旅行を待ち続ける激動の日々とは!? 宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!
16年前から予約済み! もうすぐ宇宙旅行、行ってきます!
2005年にヴァージン・ギャラクティックから発売された宇宙旅行に応募。一般企業勤務の稲波紀明さん、当時28歳は、初めての乗客100名のひとりに選ばれた。
「当時は宇宙船もできていませんでしたが、僕はその時点で旅行代金の20万ドル(約2000万円)を支払いました。キャンセルになれば払い戻されますし。質素に暮らしていたのでその分の貯金をはたきました。宇宙は幼い頃からの夢でしたから」
この旅を予約したことで、ヴァージン・ギャラクティックは稲波さんを「ファウンダー」と呼び、米国での宇宙船お披露目会などさまざまなイベントに招待。同じファウンダーのハリウッド俳優や大富豪とともに、リチャード・ブランソンのカリブ海の自宅にも遊びに行った。
「その場にいわゆるサラリーマンは僕だけ。でもみんな宇宙への思いが強く前向きで、本当に素敵な時間でしたね。旅行代は相当かかったけど(笑)」
毎年ヴァージン・ギャラクティックから記念品の贈呈などもあるものの、具体的な飛行日が決まらないまま15年が過ぎた。しかし動きが見えたのは、ブルーオリジンの台頭からだった。
「ブルーオリジンが飛ぶと決まって、アナウンスが加速度的に増え、ブランソンも飛ぶことに。ブランソンが宇宙に行けば、我々の出発もすぐだと聞かされていたので、両社が競い合ってくれることは、一旅行者としてはありがたいことです」
これまで無重力訓練も経験。
「飛行機が急降下する時に発生する無重力状態を利用した訓練が、とても楽しかったですね。地球にいると人間関係などさまざまなしがらみがありますが、大地に縛りつけようとするという意味で重力もしがらみのひとつだったと、気がつきました」
宇宙旅行を通じ、ブランソンや旅行仲間と出会い、さらに宇宙イベントで知り合った女性と結婚。現在の勤め先、船井総合研究所でも社長から「宇宙コンサルをやってみては」と進言され、新たな挑戦を始めた。
「どうしてここまで宇宙に惹かれるのかと考えると、人はDNAレベルで宇宙に行きたがっているんじゃないかと。人間はもともと魚でしたが、危険を冒し進化して陸に上がった。そして今、宇宙に飛びだそうとしている。今は進化の瞬間なんです」
出発を待ち続けた歳月は、稲波さんの人生を豊かにした。16年前から、もう宇宙旅行は始まっていたのかもしれない。