全世界を宇宙から撮影。地球を豊かにするデータを
2021年3月、日本初の量産衛星4機の同時打ち上げに成功したアクセルスペース。複数の衛星を地球の上空に連ねるこの「AxelGlobe(アクセルグローブ)」計画では現在、同社の衛星が打ち上げ済みのものを含め5機、軌道上から地球を見守っている。
「これによって地球上どこでも3日に1回は上空から撮影・モニタリングができるようになりました」
そう語るのはアクセルスペース中村友哉CEO。例えば災害が起きた際、この衛星から撮影された写真を見れば、広範囲で被害状況を知ることができる。また広大な農地や山林などの管理も、スムーズに。上空から広範囲を捉えた写真によって、今まで気づけなかった事実を発見できるのだ。このさまざまな産業に応用可能な衛星データを提供するのが、アクセルスペースだ。
「かつてはそのようなデータを必要としている企業が、自社で衛星を打ち上げていました。しかしそれでは予算も時間もかかります。ならその手間を、弊社が引き受けようと。衛星は弊社が打ち上げたものを使っていただき、お客様は欲しいデータを買っていただけたらいいのです」
この衛星を’23年までにあと5機打ち上げ、撮影頻度を1日1回に増やす計画だ。タイムリーに得られる情報も多くなり、顧客の幅も広がる。そして今、同社はこの衛星データビジネスを拡大すべく精力的に動いているところだ。その現場を山﨑泰教チーフエヴァンジェリストはこう説明する。
「今まで衛星データを使ったことのない人に『自分の仕事にこんなに役立つのか』と知ってもらいたい。例えば今、一緒にお仕事をしようとしているのが漁師です。衛星写真が赤潮予測や漁場発見に役立つかもしれない。彼らは皆『宇宙業界の人に初めて会った』とおっしゃるんです。それはつまり、開拓していけばチャンスがあるということ」
漁師と船に乗り現場を視察、彼らが欲しているものをともに探索する。ある時は、インドネシアの広大な農園、ある時はチリの砂漠と地球上を走り回る。「私たちの衛星は宇宙から世界を見ています。その衛星を扱う私たちも世界を飛び回っていないと。現場でしか見えないことがありますから」(山﨑)
宇宙技術をB to Cにして当たり前のものに
現在、同社のように衛星複数機で地球上空をカバーする事業を成功させているベンチャーは数少なく、世界中からアクセルスペースを志す人が後を絶たない。現に社員数は3年で倍になった。さらに今年25億円超の資金調達に成功、急成長を続けている。
「周辺技術の進化が大きい。創業当時はAIやクラウドの技術が一般的でなく衛星から膨大なデータをとっても、保存・解析が難しかった。しかし今は違う。企業や投資家の方にもデータの扱いが理解いただけ、弊社の事業をイメージしてもらえるようになったんです」(中村)
テクノロジーの進化、そして時代がアクセルスペースの構想にやっと追いついてきた。かつてB to Gで「宇宙開発」といわれた仕事は、時代の流れのなかで、「宇宙ビジネス」と呼ばれるようになった。そしてやがて「宇宙ビジネス」という言葉もなくなるだろうと中村CEOは予測する。
「今はもう『インターネットビジネス』とはいわないですよね。インターネットが当たり前だから。それと同じ、宇宙ビジネスがB to BからさらにB to Cに広がって、個人が普段の暮らしのなかで当たり前のように宇宙を使う時代を実現したい。そのために尽力しています」
『AXELSPACE(アクセルスペース)』HISTORY
2008年 アクセルスペース設立
2013年 世界初の民間商用超小型衛星「WNISAT-1」打ち上げ
2015年 シリーズAで約19億円の資金調達を実施。衛星数十機を打ち上げて毎日地球全体の衛星写真を撮影するサービス「アクセルグローブ」に取り組み始める
2018年 シリーズBで約25.8億円の資金調達を実施。アクセルグローブの初号機「GRUS」打ち上げ
2019年 特別貸付制度「新事業育成資金」の適用により、総額5.5億円の融資を受領。JAXA革新的衛星技術実証プログラム小型実証衛星1号機「RAPIS-1」打ち上げ
2021年 シリーズCで約25.8億円の資金調達を実施。アクセルグローブ5機体制でのサービスを開始
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