なんだか仕事で行き詰まって、働くモチベーションが上がらない……。そんな時こそ少し気持ちを切り替えて、本を手に取ってみてはどうでしょう。書籍紹介ページの担当でありながら、根っからの読書愛好家の編集者が仕事への気づきを与え背中をそっと押してくれる、優しくも力強い本を紹介します。
目頭が熱くなる、傑作お仕事小説
「言葉っていうのは魔物だ。人を傷つけも、励ましもする。本やネットを目で追うよりも、話せばなおのこと、生きた力をみなぎらせる。この魔物をどう操るか。それは話す人次第なのだ」
原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫648円)は、日本ではあまり馴染みのない「スピーチライター」という仕事がテーマ。冴えない二十七歳のOL・二ノ宮こと葉が、伝説のスピーチライターである久遠久美と出会ったことで人生が一変。スピーチライター見習いとして奮闘していく物語です。
伝えたい思いがあって、たとえそれがどんなに素晴らしいものだったとしても、相手の心に届かないと意味がない。そんなことを痛感させられました。
また、
・エピソード、具体例を盛りこんだ原稿を作り、全文暗記すること。
・聴衆が静かになるのを待って始めること。
・導入部は静かに、徐々に盛り上げ、感動的にしめくくること。
など、プレゼンやスピーチの実践的なノウハウも紹介されていて、いざという時に参考にするハウツー本としても手元に置いておきたい1冊。
言葉には閉塞した社会を、国を、世界を変える力がある! 心の底からそう思わせてくれる名作です。
『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫648円)
第7世代的仕事論とは?
白武ときおさんは、日本テレビ『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』や、お笑いコンビ・霜降り明星のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」などに携わる、気鋭の放送作家。現在30歳ということで、「同年代なのにこんなに活躍していてすごい!」と、思わず手に取ったのが、『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社1400円)です。
YouTubeに起こった革命、「第7世代」の誕生秘話、コロナ禍のエンタメ事情、テレビとYouTubeの未来予想など、エンタメビジネスの最前線で活躍する白武さんならではの分析が光ります。
霜降り明星、Aマッソ、かが屋など、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのお笑い第7世代のYouTubeを支える裏話も満載。同じ業界を目指す人はもちろん、社会に出たばかりの社会人や若者の思考を知りたい経営者たちにも刺さる内容になっています。
実は先日、ゲーテで白武さんに取材をさせていただいたんです。そのインタビューのなかで印象的だったのが「血みどろの勝負を避けるために、常に隙間を見つけて勝負をしている」という言葉。淡々と、熱く。そんな今の若者の仕事感を表しているようで、なんだかすごく共感しました。
(その記事は、2月25日発売のゲーテ4月号にて!)
『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社1400円)
内田篤人に、ブレない強さを学ぶ
『僕は自分が見たことしか信じない』(幻冬舎文庫724円)は、2013年に文庫版が発売された内田篤人さんの著作。これまでに15万部以上を売り上げているベストセラーです。
鹿島アントラーズやドイツのシャルケで活躍し、日本代表としても不動の右サイドバックとして世界と戦い続けた内田さん。彼のサッカーに対する真摯でストイックな姿勢はもちろん、優しく、素直で、ユーモアがあって、結構ガンコな人柄が凝縮されている、まさに”ウッチーてんこ盛り”の1冊だなと、引退を機に読み返してみて感じた次第です。
この本には、サッカー選手としてというよりは、生きていくうえで人として内田さんが何を大事に考えているのかが書かれています。生きていくことのなかにサッカーがあるし、生きていくことのなかに仕事がある。結局、仕事の仕方って、その人の生き様がそのまま表れるよなって思いました。
誰かが言ったこと、何かで読んだことを鵜呑みにせず、一回自分の中に取り入れて理解し、納得して、信じる。そして、自分の決断には誇りを持つ。そんな内田さんの考え方は、見習わなきゃいけないなと。
『僕は自分が見たことしか信じない』を買ったのは、たしか社会人として働きだして間もない頃。夢中になって読んで、「ウッチーかっこえー」と思った記憶があります。その頃はまさか自分が幻冬舎で、しかもこの本を作った編集者の隣で仕事をすることになるなんて、想像もしていなかった(笑)。でも、それも何かの縁だなと思うし、仕事って面白いなって改めて感じました。